北大路機関

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【防衛情報】モスクワ撃沈の衝撃!リデル級原子力駆逐艦計画と原子力巡洋艦アドミラルナヒモフ修理状況

2022-04-19 20:01:44 | 防衛・安全保障
■特報:世界の防衛,最新論点
 ロシア海軍の活動はウクライナ侵攻後顕著になっており特に日本周辺での演習や巡航ミサイル発射など続く、周辺事態ともいえる現状を前に先週世界を驚かせたモスクワ撃沈の衝撃を見てみましょう。

 2022年4月14日、ロシア海軍黒海艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦モスクワが撃沈されました、ウクライナ海軍の地対艦ミサイル部隊がネプチューン対艦ミサイルを発射し2発が命中し撃沈したとしていますが、ロシア政府はウクライナ侵攻に伴う艦隊旗艦沈没、日露戦争日本海海戦以来という、その現実が及ぼす士気低下を懸念し、事故を主張している。

 事実関係を纏めましょう。ミサイルによる撃沈は、各種検証により確実とされています、これは紛争拡大を懸念し警戒監視中であったセンチネル電子偵察機が攻撃を遠距離から確認している点、そして沈没する巡洋艦モスクワの様子が曳船から撮影され、少なくとも黒海でスラヴァ級が沈んだ事は確かであり、黒海のスラヴァ級はモスクワ一隻だけでした。

 オデッサ沖合111kmから120kmの距離で攻撃を受けた、その直後にSOSをモールスで発進した事がバルト海沿岸でも傍受されています。命中により火災を引き起したが、即座にミサイルへの誘爆はしなかった模様、そして総員退去ののちに、セバストポリ軍港へ曳航中、少なくとも10km以上曳航できたようですが、浸水が進み転覆したとされています。
■次の黒海艦隊旗艦は?
 今後黒海艦隊旗艦はどうなるのでしょう、流石にボスポラス海峡をトルコが封鎖している今すぐに増援はおくれませんが転用できる艦は限られています。

 黒海艦隊旗艦モスクワが撃沈されましたが、今後黒海艦隊旗艦はどのようになるのでしょうか。元々ロシア海軍には巡洋艦は4隻のみであり、北方艦隊に原子力巡洋艦ピョートルヴェリーキイとマーシャルウスチーノフ、太平洋艦隊に巡洋艦ワリャーグ、そして黒海艦隊にモスクワが配備されていました、ロシア海軍に巡洋艦の余裕はもともとありません。

 艦隊に旗艦を充てている、ロシア海軍には北方艦隊と太平洋艦隊、バルチック艦隊と黒海艦隊、そして内海にカスピ小艦隊が置かれています。巡洋艦は旗艦に充てられ、ただ、バルチック艦隊だけはミサイル駆逐艦ナストーイチヴイが旗艦となっています。すると巡洋艦を二隻もつ北方艦隊のマーシャルウスチーノフを回せばよいようにもみえるのですが。

 しかし、簡単ではありません、原子力巡洋艦ピョートルヴェリーキイは複雑な機構から拠点であるバレンツ海を離れる事は余りありません、大西洋全域とバルト海や地中海へプレゼンスを発揮する為には、仮にマーシャルウスチーノフを黒海艦隊旗艦に充てますと空隙が生じるのです。ユーラシア大陸を横断するロシア海軍には、一隻の喪失でも痛いのです。
■乗員全員無事は本当か
 いままでは乗員全員無事が報じられていましたので色々と云えた話題ではあるのですが。

 ロシア国防省は事故による沈没であり乗員は全員無事であると発表しました、しかし、その後に艦長が艦と運命を共にしたとの未確認報道が行われており、その上で今度は映像として、艦と運命を共にしたはずの艦長が追悼式に整列している様子が報道公開されました。全員無事と発表しているにもかかわらず、何を目的とした追悼式であるのかは不明だ。

 乗員全員無事というのはどの程度信憑性のある情報なのでしょうか、こういいますのもモスクワの乗員は510名、黒海艦隊司令部要員を含めれば650名が乗艦可能とされています。黒海艦隊副司令官が既にマリウポリ攻略戦にて戦死していますので、司令部全員乗艦とは考えられませんが、戦闘中の火災から総員退去発令まで、戦死者皆無とは考えられません。

 追悼式に150名が整列している、これは19日にフランスF2ニュースが報じているのですが、この見方によっては整列できる乗員が150名であったと見る事も出見ます、もちろん、巡洋艦が沈む火災であるので火傷により入院中という見方もできるのでしょうが、モスクワ撃沈以降連絡の取れない乗員が居るとの家族の発言などもあり、事実は闇の向こうです。
■リデル級原子力駆逐艦
 ロシア海軍の増強はどの程度考えられるのでしょうか、此処でひとつ思い浮かべるのはロシアが計画している日本のDDHなみに巨大な駆逐艦の計画です。

 リデル級原子力駆逐艦建造が巡洋艦モスクワ撃沈により加速する事はあるのでしょうか。リデル級とはロシア海軍が、スラヴァ級ミサイル巡洋艦やソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、ウダロイ級駆逐艦の代替として2013年より建造を計画している計画です。計画は大幅に遅れています、その背景はロシア軍のクリミア侵攻による経済制裁による影響が大きい。

 スラヴァ級ミサイル巡洋艦の後継を目指すリデル級は12隻の量産が計画されていました、2017年にロシア政府がロステック公社統一造船会社へ建造準備を下達しています、ただ、クリミア併合に伴う経済制裁などの影響から2027年までの建造計画には含まれていませんでした、2020年4月には一部ロシア報道で計画中止も包囲られましたが、転換の可能性が。

 原子力駆逐艦と有る通り、リデル級は満載排水量19000tと護衛艦ひゅうが型満載排水量に匹敵する巨大な駆逐艦です。武装も協力で、3S14型VLSを多数配置、ツイルコン極超音速滑空兵器とカリブル巡航ミサイルを100発以上、更に射程が400kmを超えるS-500艦対空ミサイルとS-350E艦対空ミサイルを72セル搭載する、巨大な水上戦闘艦を目指します。
■アドミラルナヒモフ
 ロシアには原子力巡洋艦も修理中ながら現役を維持しており今後はその修理がロシア海軍脅威度の一つの指針となるでしょう。

キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦の予備役艦修理作業は、ミサイル巡洋艦モスクワ撃沈が加速させる可能性はあるのでしょうか。こういいますのも、4隻が建造されたキーロフ級は一番艦アドミラルウシャコフ、旧名キーロフと二番艦アドミラルラザレフ、旧名フルンゼは解体が決定していますが、三番艦アドミラルナヒモフ、旧名カリーニンは修理中です。

アドミラルナヒモフは竣工が1988年、一番艦フルンゼの1980年竣工よりは比較的艦齢が若いのです、もっとも現在現役である四番艦ピョートルヴェリーキイは1998年竣工であるので艦齢が10年違うともいえる、他方でアドミラルナヒモフの起工は1983年でピョートルヴェリーキイは起工が1986年ですので、ソ連時代に竣工しただけ建造が確実でもある。

ピョートルヴェリーキイは、アメリカが全て原子力巡洋艦を退役した為に世界最後の原子力巡洋艦となっていますが、満載排水量28000tと護衛艦いずも型と同じ大きさであり、そして水上打撃力や艦隊防空能力はモスクワを上回ります、無論、ロシア経済が破綻しなければの前提ですが、モスクワ代替艦の建造よりも修理は現実的選択肢ともいえましょう。
■プーチン政権の海軍戦略
ロシア海軍の全軍におけるポテンシャルが今後どのように変化するのかは関心事です、陸軍は大打撃を受けていますし限られた予算では再編に限度もありますから。

黒海艦隊旗艦撃沈の現実はプーチン政権の海軍戦略をどのように変化させるのでしょうか。現実問題として今回のウクライナ戦争では黒海艦隊は増援を受けられません、何故ならば戦争中はトルコがボスポラスダータネルス海峡の軍艦航行を禁止している為で、ウクライナ戦争で停戦し、その上でトルコはじめ各国経済制裁が終了して漸く航行できるのだ。

ウクライナ侵攻はウクライナ全土の占領とロシアの衛星国化、恰もソビエト連邦へ参加させた過去を再現する事、それが出来なければ黒海の制海権を握り、現在激戦続くマリウポリ、日本時間18日2000時頃から続く極めて顕著で大規模なロシア軍砲兵射撃の目的も黒海制海権を握る事でしたが、今の黒海艦隊は駆逐艦もなく沿岸のルーマニア海軍以下です。

しかし、今回の一件を背景に、プーチン大統領は海軍予算を増額し使える海軍力の増強を目指すのか、それともカスピ小艦隊のような、コルベットと潜水艦を中心とした海軍とし、大型水上戦闘艦は核抑止力である戦略ミサイル原潜部隊の護衛のみに専念するのか、ということです。ロシア海軍が拡大するか、大統領に見切りをつけられるか、これは重要です。


北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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南西有事の際に旭川第2師団を引抜けるのか?防衛大綱へロシア脅威再認識の必要性

2022-04-19 08:10:35 | 防衛・安全保障
■臨時情報-ウクライナ情勢
ウクライナ情勢はマリウポリ包囲が極めて重大な時期であり恰もこれはアゾフ海へのウクライナアクセスを絶とうとしている状況に、冷戦時代想定された北海道稚内の有事の状況を見るようです。

現状で南西有事の際に北部方面隊を引き抜けるのか、安全保障上の大きな前提が崩れ始めている事を認識すべきかもしれません。現在、我が国では沖縄方面や台湾有事に伴う周辺事態に際しては初動を九州および沖縄の部隊により対応しつつ、その決定打となる重戦力即ち戦車部隊や機械化部隊はロシア正面に当る北海道から展開させる方針となっている。

しかし、ロシア軍ウクライナ侵攻を例に挙げるように、有事の概念はロシア軍による北海道への軍事圧力というものを想定しない前提で、北海道から部隊を抽出する方針であり、例えば近年の鎮西演習では冷戦時代には考えられない、道北は旭川の第2師団をまるごと九州へ転地させるという運用を実施しています、これはロシアを考えれば最早不可能だ。

北部方面隊の重戦力を引き抜くのは、軍事上の間隙を補う別の抑止力がなければ軍事空白に乗じて南西有事に呼応した北方有事がロシアにより引き起こされる懸念があり、例えば在日米軍へ陸軍部隊の駐屯、例えば戦車の増強などが必要となります。ただ、南西有事の特に台湾有事においては米軍こそが主役であり、それほど余裕があるとは考えられません。

千歳の第二航空団は削減されていませんが、考えれば陸上防衛力は冷戦時代や2000年と比較しますとずいぶんと削減されたものです。いや、北部航空方面隊として考えますと、F-15戦闘機二個飛行隊とF-1支援戦闘機二個飛行隊という編成が、F-15戦闘機二個飛行隊にF-35戦闘機二個飛行隊となったのですから、かなりの強化といえる。しかし陸上はどうか。

南西防衛の重要性が年々高まっている、この認識は誤りではないのですが、年内にも確定される国家安全保障戦略には南西方面とともに、ロシアに世おるウクライナ侵攻を受け、北方への軍事的影響をどのように内部化するかが、関心事といえます。それは特に、戦車300両体制、戦車は北海道にのみ配備し転地させる、という今のもの。これには限界がある。

戦車300両体制、それも例えば現役戦車300両というならば納得できます、即応予備自衛官制度を充実させ、先ず、九州に第2師団一個分の、つまり戦車連隊と即応機動連隊と機械化された2個普通科連隊に自走榴弾砲の特科連隊と後方支援連隊などの装備を事前集積し、員数外としておく。有事の際には人員だけ旅客機や新幹線等で北海道から動けばよい。

即応予備自衛官制度を強化しておけば、人員を第2師団が動かすと同時に召集を行い、そのうえで道北の第2師団装備を即応予備自衛官が入れ替わる方式で動かすことができます、事前集積しておいた装備も即応予備自衛官が定期的に訓練にて九州で動かせば問題はありません。ただ、この方式には戦車や火砲調達の増強が不可欠となります。昔の規模まで。

戦車増強など時代に逆行している、こう思われるかもしれませんが今回のロシア軍ウクライナ侵攻そのものが時代に逆行している、正戦論以前の欲しいから領土を奪い相手国の国民を隷属させるという、まさに19世紀的な時代に逆行、20世紀さえ飛び越してしまったような時代錯誤なものなのですから、この暴力が東に転じた際の備えを、日本も行う必要が。

防衛大綱と国家安全保障戦略の改訂には、中国一辺倒の防衛政策からの転換が必要だ、こう表現するのは簡単ですが、それよりも重要であるのは、日本はロシアと中国両方が有事の際に呼号する、少なくとも一方が行動を起こしたさいにもう一方が圧力をかける懸念、中立を保たない懸念が大きくなった、緊張が拡大したという現実にあるように思うのです。


北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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