北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

敵基地攻撃能力論争の新視点-SEAD防空制圧任務をどう考えるか,沿海州から北海道中心部を狙うS-500ミサイル

2022-04-07 20:22:55 | 国際・政治
■域外SEAD,憲法上可能か
 野砲の射程が50kmを超えた時は驚きましたが今や70kmや100kmさえ視野に入り様々な兵器の射程が延伸している事を実感します。そう様々な装備の射程が延びている。

 敵基地攻撃能力。日本の防衛政策を考える上で常に論点となる、禁忌か必要かの分水嶺ですが、従来この論争は日本を狙う北朝鮮のノドンミサイル等弾道ミサイルに対してのものでした。しかし、この敵基地攻撃能力はロシア軍ウクライナ侵攻により従来それ程重視されてこなかった角度からの視点迫られている現状だ、SEAD防空制圧任務という視点から。

 S-500地対空ミサイルは2020年代にロシアが開発したミサイルで、既に長射程で知られるS-400地対空ミサイルよりも更に射程が延伸、2018年に発表されたアメリカ国防総省のロシア軍関連装備に関する報告では開発試験に際し300マイル先の目標へ命中したとしており、これは482km、つまり沿海州から札幌や千歳基地上空が充分射程内に含まれるのです。

 SEAD防空制圧任務、敵の地対空ミサイル部隊を制圧する任務で、極めて危険な任務ですが必要な任務でもある。アメリカ空軍ではF-16戦闘機が展開していますが、敵ミサイルが存在すると思われる競合地域などを無防備に中高度を先ず飛行させ、敢えて敵地対空ミサイルの標的となります、戦闘機が狙われた際に即座に別のF-16が敵ミサイルを攻撃する。

 危険な任務というのは、陣地に展開している敵地対空ミサイル部隊を探す術は、射撃管制レーダーや防空レーダーを作動させるか、ミサイルを発射した瞬間です、つまりミサイルに狙われ逃げる必要があるということ。制圧にはレーダーを逆探知して電波発信源を狙うハームやシュライクなど対レーダーミサイルや誘導爆弾、必要ならばロケット弾も使う。

 徘徊式弾薬に対レーダー検知装置を搭載し防空制圧を行う手法は2020年のナゴルノカラバフ紛争で実施されました。囮の大型無人航空機や訓練用標的機を用いて相手の防空砲兵部隊の動きを探り、安価な無人機などと併用し大まかな位置を把握したうえで、レーダーはイスラエル製徘徊式弾薬ハーピー、動かないものはトルコ製バイラクタル無人機が狙う。

 敵基地攻撃能力が国会において議論されたのは1960年代、核ミサイル等により日本を狙う脅威が存在した場合に座して死を待つのか、こうした議論でした。しかしこの1960年代にはそれ程射程が大きくなかった装備が年々射程を延伸し、当時では全く想定されてこなかったものが日本を射程に収めている、それはロシアと中国の新型地対空ミサイル射程です。

 弾道ミサイルについてはミサイル防衛システムが開発されていますが、日本本土まで飛来する地対空ミサイルについてはその限りではありません、一応、イスラエルの弾道弾迎撃用アローシステムなどは過去、シリアの地対空ミサイルを弾道ミサイルと判断し迎撃、撃墜した事例はありますが、敵基地攻撃能力可否が議論された頃は精々射程が100kmでした。

 S-300地対空ミサイル、二月から続くロシア軍ウクライナ侵攻ではロシア製兵器の散々な性能が示されています、対戦車ミサイルを迎撃し戦車を防衛するアレナ戦車防衛システムを搭載したT-90戦車は黒焦げで並び無人機を撃墜する為に展開したトール戦術防空ミサイルが移動中にバイラクタル無人機に破壊される様子、ホーカム攻撃ヘリも初日に落とされた。

 しかし、S-300地対空ミサイルについては評判通りの性能を発揮しています、S-300ミサイルはロシア軍にもウクライナ軍にも配備されており、ウクライナ軍へ配備されているS-300は過去湾岸戦争で問題となったような輸出用廉価版ではなくロシア軍の最新鋭機に対しても威力を発揮しており、またロシア軍のS-300やS-400もウクライナ空軍を封じています。

 今後有事の際には、日本へ発射される弾道ミサイルも脅威となるのでしょうが、同時に敵基地、具体的には日本の領域外の外国領土から直接地対空ミサイルを我が国航空機へ投射してくる可能性が充分有ります、するとこうした長射程の地対空ミサイルを無力化しなければ、自衛隊機は勿論、民間の旅客機さえ飛行出来なくなる訳です。するとSEADが要る。

 SEAD防空制圧任務は専守防衛の範疇と見えるものですが、相手の地対空ミサイルが侵略部隊と共に日本に上陸したものだけではなく、日本の領域外から発射されるならば必然的に敵基地攻撃、S-300やS-400にS-500は移動式ですので、基地以外の演習場や民有地などからも発射可能となります、こうしたものを叩く事はどう考えるか、法的裏付けが無い。

 SEAD防空制圧任務対処能力は必要なのですが、同時にこの問題は現行憲法や自衛隊法との兼ね合いでどう考えるのか、まさか制空作戦を最初から度外視して本土決戦と、帝国陸軍のような無茶は考えないでしょうから、法整備と能力構築、つまりソフト面とハード面を合せ整備してゆかなければなりません、ロシア製ミサイルは脅威が確認されたのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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NATO-チェコ軍戦車をウクライナへ供与方針,プラハの春"記憶起るキエフ北方ロシア軍残虐行為受け決断か

2022-04-07 07:00:16 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ウクライナ軍は航空優勢を取り戻すための戦闘機と更に不足している戦車を求めています。戦車に関しては少なくない数を保有しますが消耗と稼働率の問題があるのでしょう。

 チェコがNATOを通じ戦車をウクライナへ供与する。これまでNATOはじめ各国はウクライナに対し、携帯対戦車ミサイルや携帯地対空ミサイル等、最新型ではあっても携帯可能な小型装備に供与する装備を限定してきました。もっとも、数は公表されていませんが、NLAW,ジャベリン、供与された対戦車ミサイルや対戦車弾薬は膨大な数に上るのですが。

 NATOはしかし、風向きが変わったといえます、それはロシア軍の占領地域において相当数、人口数万の都市で数百名という規模で残虐行為を行っており、非常に多数の遺体が、恰も第二次世界大戦中の様に、放置されているというロシア軍の行動が、NATOに次の行動の必要性を突き付けたのだといえる。そして戦車という重装備が供与対象へと挙がる。

 キーウことキエフ北方、戦車と云う装備は今回ロシア軍が大量に投入したものの、アメリカが供与したジャベリン対戦車ミサイル、2km先から爆発反応装甲を突き破る複合弾頭を戦車の装甲が最も薄い砲塔上部に叩きつける撃ちっぱなしのミサイル、その餌食となっていますが、あくまで対戦車ミサイルは防御用、領土奪回には攻撃前進が必要となります。

 戦車は、ロシア軍に占領された地域を奪還する為にウクライナ軍も機動打撃を展開する必要がありまして、その為に必要な装備であったのでしょう。ただ、湾岸戦争で活躍したM-1A1戦車や欧州標準戦車であるレオパルド2戦車をそのまま供与すれば良いというものではありません、ある程度訓練された戦車兵ならば、乗りこなす事は意外と簡単とはいう。

 しかし、戦車は動かすというものと弾薬の装填は比較的簡単なのですが、戦車を火器管制システムは勿論、エンジンや変速機まで含めて整備するには相応の訓練が必要で、しかも戦車は数百kmの機動ごとに点検が必要となります、するとウクライナ軍が使い慣れた、旧ソ連製の戦車である必要が生じるのです。そこでチェコの保有する戦車が提案された訳だ。

 チェコ陸軍の現役兵力は1万3000名と我が国陸上自衛隊の十分の一程度です、しかしソ連崩壊後のワルシャワ条約機構解体に伴いチェコはNATO加入を決意、NATO加盟には装備のNATO標準水準や将校の英語力など厳しい水準が示されており、徴兵制の数頼みの軍隊から即応性の高い戦力へと転換しています。保有戦車はいまだT-72戦車ですが改良型です。

 T-72M4CZ,チェコ軍の運用するT-72戦車はイスラエルの協力により機動力が強化されているとともにダナ72爆発反応装甲による対戦車ロケット弾への防御力が強化、照準装置も熱線暗視装置に換装されています。他方で主砲はソ連規格の2A46戦車砲のままであり、ウクライナ軍が多数備蓄している125mm戦車砲弾をそのまま運用することが可能なのです。

 チェコ陸軍ではT-72戦車を120両程度装備していますが、ほぼ半数が予備役となっています。ただ、予備役として維持される車両は近代化改修を行っていないT-72-M1仕様でもあり、恐らく今回NATOを通じて供与される車両は、仮に既存車輛更新用に例えば中古レオパルド2戦車などをチェコが導入しない限り、旧型のT-72M1型となるのかもしれません。

 プラハの春。今回チェコが敢えてウクライナへ戦車供与を決断した背景には、例えばポーランドのようにロシアと国境を接していないという事情と、そして1968年にプラハの春という民主化運動をソ連軍の大規模軍事介入により潰されたという歴史的経緯があるのでしょう。ロシアは一線を幾度も超えた、これを受けNATOは覚悟を決め、傍観から当事者の視点で臨もうとしています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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