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【映画講評】復活の日(1980)【4】水爆が人類を救い医学が人類を滅亡させる不思議な大団円

2020-04-11 20:01:32 | 映画
■物事の二面性-小松左京の遺言
 1950年代末にありました新型インフルエンザアジアかぜ、そして同時期のペスト菌事故、本作はこの二つと核兵器を取り混ぜた深い主題があります。

 復活の日。SF巨匠小松左京が日本沈没や見知らぬ明日、さよならジュピターや継ぐのは誰か、未来に向けて示した世界観の具現化の中でも一際輝く作品でもありますが、MM-88の感染拡大による南極以外の人類絶滅を描いた世界観は、いまCOVID-19コロナウィルス肺炎による被害が拡大する中で、パンデミー世界的流行禍を描いただけでは、ないのですね。

 核兵器は人類を滅亡させるはずのものですが、結果的に中性子爆弾の中性子線がMM-88を殲滅させることとなった、人類を破滅させるはずのものが一歩違いで人類を救うこととなった、これを皮肉と呼ばずしてなんと呼ぼうか、ソ連のウィルス学者はこう叙述した上で、人類はここまで減ってしまったが、幸い生き残りには高度な見識と歴史の蓄積が、ある。

 中性子爆弾は主として核融合を用い中性子線を大量に放出しますが、トリチウムはプルトニウムやウランなどのように残留物質をそれほど残しませんし、爆風も限られているために生産設備や施設などは残っており、人類は絶滅寸前となったものの大陸へ復帰できたことから、旧文明というべき死に絶えた世界には生き残った人類が残した数多くのものがある、それでもなお人類の復活の日は遠い。

 復活の日には文明を再生させることができたとしても、核兵器と核酸兵器を生み出した憎悪というものを再生させず生き残る文明の道を探さなければならない、こうして復活の日は終幕します。復活の日、小松左京が示した世界は、新型インフルエンザが流行してみんな病気でたいへん!、という単純な作品ではないことが、おわかりいただけるでしょうか。

 不信感。小松左京氏の復活の日に込めた想いは、科学万能主義への警鐘と云いましょうか、盲信、というべきでしょうか、全体像が良くわからないが周りが良いものだと強調圧力を示す、その時勢での良きもの、この価値観への盲信へ警鐘を示しているものではないか、といえるのですね。そして1957年のアジア風邪流行、新型インフルエンザの流行下に。

 イギリスでペスト菌が細菌戦研究所にて保管されており、これが研究所内で漏洩し研究員が感染した、アジア風邪と同時期にこんな事件がありました。小松左京氏は京大文学部でイタリア文学を専攻、ボッカチオやダンテはじめイタリア文学には、ペストを扱ったものも多くどれも悲惨か狂瀾、故に医学と結ぶ細菌戦研究に強い違和感を覚えたのかもしれません。

 小松左京氏の旧制中学時代、神戸一中を第二次大戦中に旧制中学として、暴力と理不尽に溢れた生活の中で級友、高島忠夫氏もクラスメイトという、友情をはぐくんだ、としています。この話題などは小松左京氏の著書”やぶれかぶれ青春記”に詳しく記されているのですが、第二次大戦の終戦と共に価値観が一転した違和感と不信感を強調されています。

 神戸一中では、戦時下でも戦後でもかなり理不尽な先輩の後輩への鉄拳制裁と軍事教練にあわせた理不尽な暴力や教員の暴力、放置されていた事への不満と共に終戦で民主主義第一の時代が到来しますと、教員が一転して元々私は民主主義者で、と言い始め、いや社会も強いものに忖度するが如く価値観を一転して、ここへオトナへの不信が芽生えた、と。

 医学は万能といいますが、核兵器を生み出すまでは科学も万能といわれていたわけですので、この価値観の一転、正の部分と負の部分の両面を理解せず、便利さだけを依存する事への個人的な不安といいますか経験的な不信感でしょうか、これを敢えて当時話題のアジア風邪や香港風邪にあわせた、一種時事的な内容として世に問うたように、思えるのです。

 小松左京の価値観から。学ぶべきは、寧ろ価値観は一転しうる、しかし一転する前も後も事象は同じなのだから、もっとよく考えて生きてゆくべき、こう受け取ることが出来るのかもしれません。昨今から考えるならば、考えずに流されるポピュリズムへの警鐘、こうしたものを考えられるのかもしれません、価値観の一転はここと重なるようですよ、ね。

 疾病対策という視点から。実のところ、医学と核兵器、この本作世界観と現在のコロナウィルスを比較しますと、感染拡大を抑え込んだ中国と感染拡大が続くイタリアとなる。中国が犠牲としたのは自由と尊厳、イタリアが尊んだのは人権、しかし疾病対策と人権を今後秤に掛ける動きが生じないかという、いわば両面への思考というものなのやもしれない。

 映画では、そこまで深いことを描くには至りません、当たり前ですが尺が足りません。しかし、映画を入り口として敢えて原作を読まれてみてはどうでしょうか、故人となられました小松左京氏ですが、復活の日はじめ数多著書は絶版とならずいまでも店頭に並びますし、AMAZON通販でも入手容易です、COVID-19の人混みを避け、読書も良いでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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