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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ポーランド着弾はウクライナ防空部隊発射のS-300地対空ミサイルか,当時ロシア軍大規模ミサイル攻撃を迎撃中

2022-11-16 20:22:25 | 国際・政治
■臨時情報-欧州情勢
 ポーランド外務省は"ロシア製ミサイル"という点を強調していましたがロシア軍のものかは明言を避けていた点がありました。

 ポーランドに着弾したミサイルは、判明している部品についてはS-300地対空ミサイルであり、ウクライナ軍防空砲兵部隊が発射したものが着弾したものである可能性が濃くなってきました。ポーランド政府はロシア製ミサイルの着弾と発表していますが、S-300地対空ミサイルはロシア版ペトリオットとされ、東欧や中国中央アジア諸国にも広く輸出される。

 NATO北大西洋条約機構は今回の事件について、AWACS早期警戒管制機などを常時飛行させ警戒監視にあたっていますが、この情報についてアメリカのAP通信がアメリカ政府関係者の情報としまして、ロシア軍ミサイルを迎撃する為に発射したウクライナ軍ミサイルがポーランドに着弾、と報道しましたが、アメリカ政府は調査を継続するとしています。

 着弾したミサイルとされる部品からS-300ミサイルシステムの5V55である事は確実とされ、これは射程が150km程度であることから、着弾した地域へは仮にベラルーシから発射した場合でも届きません。一方、事件当時はウクライナ領内に90発ものロシア軍ミサイル攻撃が行われる最中であり、ウクライナ軍も総力を挙げ迎撃していたという状況でした。

 犠牲者がポーランドにおいて発生しましたが、今後ウクライナ当局が、例えば誤射事故の責任者を更迭するなど対応を行い謝罪するのか、こうした施策を行わないのかにより、ウクライナ支援へ温度差が生じる可能性があり、またウクライナ侵攻に多い手劣性であるロシアがこれを機に分断工作を進める懸念もあります。ただ関係悪化は決定的とはなり難い。

 ロシア戦闘爆撃機撃墜事件やシベリア航空機撃墜事件、今回の事故を視る上で参考となる事例は過去にあります。一つは平時の置ける領空侵犯事案に際してトルコ空軍の戦闘機がロシア軍の戦闘爆撃機を撃墜した2015年11月24日のロシア戦闘爆撃機撃墜事件です。これはシリア空爆へ向かうロシア軍機の領空侵犯が相次ぎ、トルコのF-16が強硬措置に出た。

 トルコ空軍のF-16戦闘機はロシア軍のSu-24戦闘爆撃機に対し10回に渡る警告を行った後に進路を変更しなかった事から撃墜という手段に出ました。この事件は平時でありトルコとロシアの間に係争問題はありませんでしたが、両国関係は一時的に悪化しており、撃墜措置を行ったF-16戦闘機の操縦士が後にトルコ当局により逮捕されたとされています。

 この事件ではロシア政府が一時的にトルコ系労働者のロシア国内での就労禁止という大統領令が出されたほか、事件前に予定されていた11月15日のラブロフ外相トルコ訪問の予定急遽中止など、一時的摩擦は生じましたがトルコ空軍機の動静をトルコも加盟するNATOがトルコの主張を裏付ける形で情報公開を行い、緊張の拡大には至りませんでした。

 シベリア航空機撃墜事件は2001年10月4日に訓練中のウクライナ軍防空砲兵部隊が誤って黒海上空をイスラエルのベングリオン空港からロシアのトルマチョーヴォ空港に向け飛行中のシベリア航空Tu-154旅客機を撃墜した事件です。2001年ということもあり、同時多発テロ直後、航空機によるテロを警戒された中ではあり、当初テロが疑われていました。

 S-200地対空ミサイル、しかし事故から二日後にウクライナ軍防空砲兵部隊の誤射がロシアにより疑われる事となります。ただ当初世界は情報の精査を進める事としました、何故ならばウクライナ軍防空砲兵部隊の演習は250km先で行われており、ここまで遠距離で命中するのかという疑義です。ただ、一転したのはTu-154の機体が一部回収された際です。

 Tu-154旅客機にはS-200ミサイルのボールベアリング状破片が多数貫通していた。これに対してウクライナ軍は当日S-200の演習を否定し射程10km程度の短射程ミサイル訓練を行っていたと主張しましたが、後に撃墜を認めています。被害者の多くはイスラエル国籍であった事から2003年にウクライナとイスラエルが人道的補償に関する協定を結びました。

 この問題は長期化し、特にS-200による誤射はロシア側の発表だとしてウクライナ当局が認めず、責任によるものでなく人道的な見地からの補償という実質的に責任を認めなかった事からウクライナ国内にて遺族による民事訴訟が行われています。21年前の事件ですが、見方によってはイスラエルが今ウクライナへの武器供与を渋る遠因ともみえましょう。

 マレーシア航空17便撃墜事件、もう一つは2014年7月17日、ウクライナのドネツク上空を飛行中のマレーシア航空ボーイング777旅客機が撃墜された事件です、これは乗客乗員298名全員が死亡する悲劇的な事件でしたが、当時はウクライナ東部紛争としてロシア系武装勢力が当該地域において戦闘を繰り広げていた最中、上空で発生した事件でした。

 ボーイング777、撃墜にもちいられたのは9k37ブーク地対空ミサイルで、武装勢力が携行するには少々無理のある大型の防空システムです。当該地域ではウクライナ軍のSu-25攻撃機などが撃墜されており、当時武装勢力指導者がウクライナ軍のAn-26輸送機を撃墜、ウクライナ当局が発表したボーイング777の撃墜は虚偽発表と声明、関与が判明します。

 マレーシア航空17便撃墜事件については武装勢力である自称ドンバス人民共和国国防軍は責任を今に至るも認めていません、しかし2019年にオランダ検察が得られた証拠を元に起訴し国際逮捕状を発行しています。ロシア戦闘爆撃機撃墜事件やシベリア航空機撃墜事件とともに条件は今回の着弾事件とは異なりますが、解決へ道が有る事は示されています。

 問題は、今回のS-300ミサイルはロシア軍大規模ミサイル攻撃に際して迎撃へ発射されたものであり故意のものではないという事です。一方、NATO加盟国領域で市民が死亡した初の事例となった事も確かであり、ロシアミサイル攻撃は続いている、ポーランド領内に展開するNATO部隊が今後特に地対空ミサイル部隊などが強化される契機となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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