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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

日本造船業は防衛の根幹,LST&LSDを増強せよ【2】低コストで輸送船を量産する日本造船業

2020-11-26 20:01:18 | 防衛・安全保障
■産業力も国力であり防衛力
 日本造船業は防衛の根幹であるという本特集、日本が緊迫度を増す周辺情勢に対応するには国内の工業力を如何に協同するかが重要です。

 自衛隊の輸送艦艇、特に災害派遣から防衛出動まで活用できる装備ですが、その整備に日本国内の強力な造船所網を活用できているだろうか。特に内航船舶を設計する造船能力においてコスト面と性能面で大きな建造能力を有している我が国では、輸送艦艇、とくに設計上の特色から各種揚陸艦の建造能力、その潜在能力は極めてたかいようにも考えるのですね。

 輸送艦艇。設計の特色をみますと、もちろんステルス性能や個艦防護能力などを加えますと、その設計の特殊性は際限なく拡大してゆくのですが、LST戦車揚陸艦などはタンカーの設計を、LSDドック型揚陸艦は浮ドックの設計を、共通性があるのではなく、便利な民生品をそのまま応用するかたちで、物資不足の厳しい第二次世界大戦中に設計されました。

 揚陸艦。災害派遣にも活用できますが、なかなかその任務を海上保安庁や警察が担う訳には参りません。自衛隊の任務は災害派遣ではない、と反論されるかもしれませんが、国がもてる資材のすべてを投入する、これが政治と言うものです。いや、陸続きで揚陸艦など必要ない、と災害派遣専用装備ならば私も首肯はしないのですが、実際はどうでしょうか。

 水陸機動作戦を考えるならば、作戦輸送としても業務輸送としても自衛隊の輸送力は十分ではありません、例えば輸送艦おおすみ型などは満載排水量14000t、3隻あり、その能力は世界水準では比較的高いものなのですが、要求は1990年代のものであり、2020年代の安保環境に考えるならば海上自衛隊の輸送能力は求められる水準には、達していません。

 タンカーに似ている。LST型輸送艦、みうら型輸送艦、あつみ型輸送艦、のと型輸送艦の写真を見まして友人がふと発した一言です。形状は艦橋が船体後部に配置され船体中部と前部は巨大な車両甲板と平甲板の形状をとっていますが、実はその通り、タンカーの設計が応用されています。実際、最初のLST戦車揚陸艦はタンカーを設計変更したものでした。

 LCT戦車揚陸艇、1940年にイギリスは戦車を従来の貨物船にてクレーンを用いて埠頭に揚陸させる方式に変えて、船舶から直接海岸に上陸させる舟艇を開発します、が、小さすぎた。着想は画期的でしたがたとえばドーバー海峡を超えるには波浪が高ければ転覆するおそれがあり実用的ではなかった、そこで航洋性高い船底の平らなタンカーが注目されます。

 バチャクエロ級揚陸艦。世界初のLSTは1941年にイギリス海軍が戦車を強行輸送する艦艇として浅喫水構造のタンカーをもとに、油槽区画を改造転用し車両甲板とし、車両排気の通風筒や観音開式揚陸ランプを追加した構造としました。バチャクエロ級は3隻がとりあえず建造されましたが、この1941年のイギリスの造船能力余裕はなく、アメリカへ。

 LST-1級。第二次世界大戦中のアメリカで1152隻も量産された戦車揚陸艦で、戦後には自衛隊にも供与され、おおすみ、しもきた、しれとこ、はやとも、4隻が活躍しています。予備艦扱いも含め驚く無かれ2020年代まで、なにしろ1940年代の設計と製造、海軍にて活躍しています傑作揚陸艦は、このバチャクエロ級のアメリカ建造仕様というべきものです。

 ボクサー級戦車揚陸艦。バチャクエロ級をアメリカで設計し、バチャクエロ級は速力が10ノットしかありませんでしたので、いかにも低速すぎるとしてイギリスの要請でエンジンを強化し17ノットまで発揮させたものです。しかし平底設計で艦首に強度限界のある観音開扉を設置し17ノット性能を盛り込む設計は量産が難しく、建造も1944年へ遅れました。

 LST-1は満載排水量4050t、基準排水量1650tで全長は100mなのですけれども車両甲板は全長88mと幅は9.1mありまして、ビーチング運用の際には車両を500t、埠頭接岸時には車両など2100t、輸送可能です。タンカーの設計を応用したことは実はこの揚陸艦の浅海域での運用以外にもうひとつ、火災対策という部分で有用でした、可燃物を搭載している。

 タンカーは重油や軽油や原油にナフサやガソリンなどを輸送しまして、程度の差はあれすべて危険物です。しかし、落ち着いてかんがえますと揚陸艦に搭載する戦車もトラックもすべてガソリンや軽油を搭載しているのですね、すべて可燃物です。このため、タンカーの消火装置や防火構造もそのまま応用できるものでして、実際LSTの生存性はかなり高い。

 日本の造船能力ならば、内航船の設計で全長100m程度のものを量産する能力はありますし、なにより少子高齢化を受けコスト面以外に省力化の設計技術にも長けています。海上自衛隊に人員が不足するならば陸上自衛隊が方面輸送隊として一個小隊規模の人員で各1隻を運用してもよい、日本の造船技術規模ならばかなりの数を安価に揃えられましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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面白い特集ありがとうございます (ドナルド)
2020-11-26 21:53:09

LSTとタンカーの大きな違いは、吃水ですね。LSTは浅い吃水ゆえに航洋性が低く、ランプがあるために船首をシャープにできないため、速力も出ません。世界的にLSTは廃止されつつあります。イギリスも、フランスも、スペインも、イタリアも、豪州も、いずれも高度な揚陸、輸送能力は有していますが、すべてLST型の船はなくなりました。LST型の船で大規模な兵員を輸送しようとしている軍隊は、世界のどこにもありません。

港湾環境の改善を受けて、代わりにRoRo船を軍が積極的に使うケースが増えています。装備をRoRoで、兵員を飛行機で、ですね。

RoRo船は商船そのもので建造が安価であり、ランプは舷側についていますが、LSTのビーチング用の艦首ランプほど強度もいらないし、世界中に沢山あるのでメンテナンスも容易。結果として乗組員も削減できます。

NZ海軍の輸送艦カンタベリーも良い例です。この艦は民間フェリーの姉妹船です。悪天候時に動揺が大きくて問題になっていますが、バラストを増加してなんとか誤魔化し誤魔化し使っています。悪天候を避ければ何の問題もなく、NZ海軍でもよく使っています(なお、その艦載LCM(クレーンでハンドリング)ですが、民間フェリーの設計にしてしまったせいで、艦首ランプの強度が足りず要求を満たしていないため、建造所が「再製作」のペナルティーをかされています)。

島々を巡っているフェリーのように、ランプはあってもビーチングは要求しない。整備の手間を減らし、建造を容易にする。運行経費を安くすることで、平時には離島振興や、陸自の車両輸送にどんどん使う。2000-3000t級の船でも、これなら乗組員は、1隻あたり12人くらいまで削れるのではないでしょうか?言い換えると、おおすみ形1隻と同じマンパワーで、11隻を運用できるような。
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