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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北澤防衛相、2011年度防衛予算に与那国への自衛隊配備調査費計上を本格検討

2010-05-01 23:38:35 | 防衛・安全保障

◆部隊配備よりも訓練環境の確保が重要

 那覇駐屯地に第15旅団が第1混成団から拡大改編された事で9個師団6個旅団体制が完成しました。これにより南西諸島の防衛を固めるという意気込みなのですがもう一歩進んだ提案が北澤防衛大臣から為されたようです。

Img_6240  与那国などへの自衛隊配備、来年度に本格検討・・・【ニューデリー=白川義和】北沢防衛相は30日、中国海軍の日本近海での活動活発化などを受け、与那国島など南西諸島への自衛隊配備に向けた調査費を2011年度防衛省予算に計上し、配備場所や規模などを本格検討する考えを示した。訪問先のニューデリー市内で記者団に語った。防衛相は、中国艦隊が4月、沖縄本島と宮古島の間の公海上を通り抜けて訓練を行ったことを受け、「今回のように追尾だけで本当にいいのかという問題もある。何らかの配備を考えなければいけないという空気は防衛省の中でも非常に強くなっている」と述べた。(2010年5月1日00時53分  読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100501-OYT1T00104.htm

Img_1672 那覇駐屯地の第15旅団は、旅団司令部、第51普通科連隊、第6高射特科群、第15飛行隊、第15偵察隊、第15施設中隊、第15通信隊、第15後方支援隊、第15音楽隊、第101不発弾処理隊から編成されていて、ヘリコプター部隊の規模は第12旅団に次ぐ規模を持っており、これは急患輸送災害派遣を想定しているのですが空中機動能力ではかなり高いものを持っています。人員は2100名と旅団としては一定の規模なのですけれども、基本的に全ての部隊が沖縄本島に駐留していて、南西諸島の尖閣諸島の間近にある宮古島、与那国島、石垣島への部隊を配置する必要性があるのでは、という議論はかなり長い期間為されてきました。いわば警備隊として第一線の島嶼部に中隊規模の部隊を置くのか、もしくは沿岸監視隊として後方の部隊に情報を送るという部隊を置く事を考えているのでしょうか。

Img_6112  しかしながら第15旅団は新しい部隊を新編する前に、その能力について重大な問題を抱えています。それは旅団管区内に自衛隊が用いることのできる演習場を持っていないということです。那覇訓練場として小規模なものはあるのですが、面積から携帯式対戦車ミサイルや迫撃砲の射撃訓練を行う事は出来ません。那覇の第1混成団はもともと迫撃砲の訓練などは九州の日出生台演習場などで実施しており、当然ながら訓練を行うには沖縄から九州まで展開する必要があり、その訓練頻度がかなり低くなっている訳です。部隊としての能力は演習量に比例しますので、この点、第15旅団は演習場を確保して訓練を行わなければ、島嶼部防衛に当たるための能力を確保することは難しい訳です。米軍の北部訓練場を共同使用出来れば自衛隊としては理想的なのですが、米軍北部演習場は世界唯一の熱帯雨林での状況を想定した米軍演習場ということで多くの部隊が使用しています。

Img_4296  第15旅団に戦車中隊でも配備してみてはどうか、とも思います。戦車中隊を配備して、その運用を考えることで演習場の問題に解決の糸口が見つかるのでは、と。沖縄の第三海兵師団は他の海兵師団編成と比べて戦車大隊を持っていませんので、戦車部隊との協同訓練は太平洋地域では豪州陸軍などの戦車部隊とともに実施しているとのことです。それならば、90式でも74式でも良いので戦車を沖縄に配備して、日米合同演習という形で海兵隊に戦車との協同訓練を行う機会を提案するのならば、北部演習場を日米共同で用いる事が出来るかもしれません。北部演習場は日出生台演習場の二倍程度という規模があり、射撃訓練には制約があるのでしょうが、実動訓練を行うには十分な面積があります。

Img_7067  熱帯雨林という地形上戦車の運用は難しそうに見えますが、過去にはヴェトナムやフィリピン攻防戦でも戦車は使われています。現代のこうした地形での戦車と海兵隊のような軽歩兵部隊との協同の在り方を日米合同で沖縄北部演習場内にて錬成する、という目的で、仮設敵のようなかたちでもいいですから海兵隊と第15旅団が演習を定期的に行う事は理想的でしょう。現実問題として幾度も高い頻度で日出生台演習場に旅団が展開することは困難ですし、沖縄県内に新しい陸上自衛隊演習場を確保するという事は不可能です。しかし、北部訓練場の協同運用ならば、第15旅団は沖縄県内に新しい演習場を構築する必要無くその練度を向上させることができるのではないでしょうか。そのために戦車は必要、といえるやもしれません。島嶼部防衛には、ちょっと戦車はその輸送手段の確保を含め問題点があるのですけれどもね。

Img_4628  尖閣諸島付近の島嶼部に、新しい部隊、例えば現在第51普通科連隊まで編成されていますから、新しく第52普通科連隊を編成し、例えば石垣駐屯地や下地駐屯地として連隊を駐留させる、という提案がおこなわれるのならば、やや疑問が生じます。全ての島々に中隊規模の部隊を配置させる以外は、高速強襲艇か固有の空中機動手段を連隊が持っていなければ、有事の際に隣の島にさえ行くことができません。しかし、高速強襲艇やヘリコプターを連隊規模で管理させるのは難しいですし、第15飛行隊を分割して駐留させる、というのは機数の少なさから難しいでしょう。もう一つの案、中隊規模の警備隊の多数配置ですが、中隊規模で全ての島々に展開させてしまうと、演習を行う時にはどうするのか、駐留する島での生地演習を行い実弾射撃は海に向かい実施、というのは無理がありますし、練度を維持することが非常に難しくなってきます。88式地対艦ミサイルや03式中距離地対空誘導弾でも展開させるのならば別なのですがね。

Img_0554  昨年度末に新しい職種として情報科が新設され、今津駐屯地の中部方面移動監視隊に加えて中部方面無人偵察機隊が新編された、と今津駐屯地HPにありました。南西諸島の防衛警備を考えますと、無理に警備隊を置くよりは、もちろん、警備小隊をつける必要はあるのでしょうが、第15偵察隊を第15偵察大隊に改編して、隷下に現行の斥候小隊とともに二個移動監視隊と無人偵察機隊を置き、沿岸監視を行う、という方が現実的に理想的といえるのでしょう。他方で、情報を受けての沖縄本島からの即応部隊として、第15旅団が充分な能力を確保するためには、北部訓練場の共同使用についての検討を行う必要があるのではないでしょうか。

Img_6844  部隊さえ編成すれば、それで抑止力を発揮できる、という考え方はあまりに浅はかです。第15旅団はホークミサイルの運用と野戦運用を統合した戦域防空能力、そして不発弾処理能力では全自衛隊の中でも特筆すべき高い能力を持っている、と言えるでしょう。この中で新しく旅団に近接戦闘能力の充実を踏まえて、島嶼部防衛を維持継続させるという任務が求められています。しかし、その為には演習環境を確保する必要がありますし、警備の為に駐留させるのですから、警備と演習のローテーションを考える必要が出てきます。この点を南西諸島防衛には反映させる必要があるように考えるのですが、皆様はどうでしょうか。

HARUNA

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コメント (4)
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