◆試される鳩山内閣の予防外交能力
朝鮮半島情勢が突沸という状況になりつつあります、韓国コルベット沈没事案が北朝鮮によるテロであることが公式に発表されたためです。
韓国軍とアメリカ、イギリス、オーストラリア、スウェーデンの民間専門家から成る合同調査チームは、沈没した韓国海軍コルベットの船体から炸薬の痕跡を発見したのに続き、攻撃に用いられた魚雷の破片を発見、が北朝鮮の魚雷攻撃によるものであると断定し発表しました。合同調査団が韓国国防省において公開した魚雷の部品には推進装置が含まれており、この推進装置に組み立てに用いたと思われるハングル文字が確認されました。これが動かぬ証拠となり、型式から北朝鮮製の魚雷であることが判明、北朝鮮の攻撃、と断定された訳です。
韓国の李明博大統領は、かねてから人為的な攻撃であるならば断固たる対応を執ると公言してきましたが、既に18日から韓国駐在の各国大使へ非公式での事前説明会を行っており20日夜には鳩山総理とも電話会談を行っています。この電話会談を経て鳩山総理は、北朝鮮制裁を韓国が提起するのならば日本は強く支持する、と表明しました。現時点ではアメリカによるテロ支援国家再指定と国連安全保障理事会による制裁決議を求める事が制裁として挙げられているのですが、韓国軍からは具体的な制裁について言及する声もあり、その一方で北朝鮮が韓国のコルベット沈没を韓国による自作自演として北朝鮮を陥れようとする謀略だ、と朝鮮中央放送は報じました。北朝鮮は何らかの措置を韓国が執った場合には軍事的対応を行うとも同放送が報じていますので、場合によっては武力紛争に発展する可能性も出てきました。
朝鮮半島有事が現実のものとなれば日本は対岸の火事ではなく隣家の火事という状況に陥ります。朝鮮半島は朝鮮戦争以後多数の通常戦力を整備して対立を続けたがために多数の戦力が配置されています。日本の陸上自衛隊は人員14万5000名、戦車約850、火砲約750とヘリコプター400機を運用しているのですが、日本国土の六割程度の面積である朝鮮半島には、韓国軍56万、戦車約2000、火砲約3000。北朝鮮人民軍100万、戦車約2000、火砲約8000。これだけの数の兵器が向かい合っている訳です。戦争となれば当然日本へも難民流入や周辺地域からの交易不通、その他を含め影響が及びます。
また韓国在留邦人と観光客を日本国内へ輸送する邦人救出任務を行う必要が出てきますし、日本国内でのテロ対策なども有事の水準で行う必要が出てくるでしょう。鳩山総理は、韓国を全面的に支持する、と表明されたのですけれども、一方で南北軍事境界線での武力衝突という最悪の事態に陥らないように、主体的に日本が外交面で行える事を全て行う必要が出てきます。もちろん、水上戦闘艦を平時にテロ攻撃で撃沈したという事案は前代未聞ですから、然るべき措置を韓国政府が要求するのは当然なのですけれども、均衡点が有事の方に倒れないように予防外交を展開する義務が政治にはある訳です。
鳩山総理も韓国を支持するという発言と同時に、両国の平和的解決を望むという言葉を盛り込むべきでした。さて、予防外交として考えられるのは六カ国協議の枠組みを利用した事実関係の究明を行うか、もしくは六カ国協議の枠組みを元にした新しい会合のようなものを構築するか、その意見交換の場を日本と中国、アメリカが共同して対応することが考えられます。六カ国協議の枠組みが終了するのか、新しい機能を付与させるのか、別の枠組との競合が生じるのかは、今後の核開発問題や拉致問題解決にも影響が及ぶのでしょうけれども、日本外交一つのの正念場となることは間違いなさそうです。
一方で軍事制裁といいますか、韓国軍が復仇を行うかは別として国連安全保障理事会への提訴やアメリカによる北朝鮮のテロ支援国家再指定という北朝鮮制裁措置が行われる可能性は非常に高くなっています。これに対して朝鮮中央放送が発表しているように何らかの軍事的な手段、つまり北朝鮮が弾道ミサイル実験や核実験など軍事的圧力により打開を図る可能性が出てきます。こうした事態が進展した場合に備え、日本としては政府が適切な情報に基づいて政策決定を行えるように情報収集を重点的に行う必要があるでしょう。
また、こちらは繰り返すことになるのですけれども、北朝鮮による魚雷攻撃、周辺の地形から韓国国防省が推測した発表では小型潜水艇による魚雷攻撃としているのですけれども、日本近海の船舶や艦船に及んだ場合の事を考慮し、警戒態勢の強化や沿岸での警戒監視の実施などを行う必要が出てきます。安全保障問題と言えば普天間移設問題、危機管理問題と言えば宮崎県口蹄疫拡大事案と、山積している中で内閣支持率は底知らずの暴落を続け、判断が難しい状況に陥ってる事も理解できるのですが、最悪の事態に展開しないように、政治の手腕が求められています。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)