◆朝鮮半島情勢睨み?巡洋艦日本海へ集結
統合幕僚監部24日報道発表によれば、22日土曜日0900時頃、ロシア海軍のスラヴァ級ミサイル巡洋艦を九州北部沖の対馬海峡で発見、対馬海峡を北上した事を確認したとのことです。
確認したのは佐世保基地の護衛艦きりさめ(DD104)、で第七護衛隊に所属する護衛艦です。スラヴァ級ミサイル巡洋艦は1982年から就役が始まったミサイル巡洋艦で、現在ロシア海軍は三隻を保有していて、太平洋艦隊旗艦にも同型のワリヤーグが配備されています。防衛省が発表した写真には艦番号121とあり、これは黒海艦隊旗艦であるモスクワ、であることが確認できました。満載排水量11490㌧、全長186.4㍍の大型巡洋艦で、黒海艦隊旗艦なのですが東アフリカ沖やインド洋でも任務に当たっているようです。ワリヤーグが海上自衛隊創立50周年記念国際観艦式に参加していますが、最大の特色は巨大なSS-N-12サンドボックス対艦ミサイル連装発射器を両舷に各4基、計16発を搭載しているところでしょうか。射程550kmのこのミサイルは、強力なラムジェットエンジンにより超音速巡航が可能です。このミサイルは基本的に米空母を一撃で機能不随に追い込むことが目的なのですが、改良型には対地攻撃型が開発されており、弾頭重量は1000kgと西側のトマホークより二倍、ハープーンよりも四倍以上の炸薬を持っています。また、キーロフ級とともにスラヴァ級はSA-N-6艦対空ミサイルを搭載しています。射程90km、有効射高30000㍍、限定的な弾道弾迎撃能力をもつミサイルで、陸軍にもS-300として採用されており、ピョートルヴェリキーには改良型のSA-N-20が搭載されたといわれています。攻撃力、防御力ともに大きいものなのですね。
先日北方艦隊のキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦ピョートルヴェリキーが対馬海峡を通過した事と併せ、一ヶ月間に二隻ものロシア海軍大型巡洋艦の対馬海峡通行は極めて異例です。太平洋艦隊以外のキーロフ級原子力ミサイル巡洋艦やスラヴァ級ミサイル巡洋艦が一ヶ月間に二隻、となりますと、これはソ連崩壊以後では異例の規模で、ソ連海軍が健在であった頃にも非常に稀有な事例といえます。そもそも、ソ連崩壊以後は太平洋艦隊の行動も極めて小さくなり、かつては海上自衛隊を遥かに圧倒して、アメリカ海軍の第七艦隊と、空母キエフを先頭に対峙していたのですけれども、今日的にはロシア連邦の財政難から水上戦闘艦は次々と除籍され、水上戦闘艦の数でも能力でも海上自衛隊の方が優勢となっています。また稼働率も低下し、太平洋艦隊もウラジオストク基地をはじめ海軍基地にて保守整備を優先して、太平洋に出る事はあまりありませんでした。そこに日本海へ北方艦隊旗艦のピョートルヴェリキーと黒海艦隊旗艦のモスクワ、が入っている訳です。二隻とも、米海軍空母機動部隊への攻撃を期して建造された強力な艦、空母を除けば第二次大戦後建造された最も大きな水上戦闘艦に数えられる艦です。まさか、海上自衛隊がかつて実施していたように集合訓練を行っているとも思えませんし、意図が気になります。
ミサイル巡洋艦モスクワの極東回航ですが、考えられるのは北方艦隊のピョートルヴェリキーとともに太平洋艦隊に協力し、朝鮮半島情勢に対処する事でしょうか。朝鮮半島情勢は韓国艦撃沈以来緊張収束の見通しは全くなく、米韓合同演習の実施や、国連安保理決議が行われれば報復措置に出るとした北朝鮮の姿勢など、緊張度合は増す一方です。既に昨年、北朝鮮が弾道ミサイル実験を行った際に、ロシア政府は弾道ミサイル迎撃能力のあるS-400地対空ミサイルの極東配備を発表しています。S-400はロシア版ペトリオットとして知られるS-300の後継で、モスクワとサンクトペテルブルクに続き配備となります。朝鮮半島情勢が最悪の状況に陥った場合には、ロシア国内へも難民流入や北朝鮮空軍機の越境、更には核兵器が使用される可能性や核関連施設が航空攻撃により破壊され、放射性物質による広域の汚染という可能性があります。現在の国際関係を見る限り、ロシア軍が北朝鮮軍の南進を支援する、というラリーボンド「侵攻作戦レッドフェニックス」のような状況は現実的にあり得ませんし、中国も森詠「日本朝鮮戦争」のように北朝鮮の高官亡命を受け入れる可能性はあるのですけれども、軍事的支援という事はあり得ません。一方で自国への被害が及ぶ事は当然憂慮する必要がありますので、備えを行っているとのことでしょう。
HARUNA
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