◆ティルトローター機、訳すと可動翼機?
普天間飛行場移設問題に関する話題でMV-22という航空機の名称が出てきます。続いてV-22が報道では欠陥機、墜落事故続出、というような論調がありましたが本日はこれについて少し掲載。
回転翼機、固定翼機と二分される航空機体系の中でティルトローター機というのはどう表現すればいいのでしょうかね、可変翼機というと違う意味になってしまいますし、可動翼機、とでも訳すべきでしょうか。ヘリコプターのような垂直離着陸が可能な航空機であり、離陸後はローターを前に倒し通常の航空機のように飛行することが出来る航空機です。ヘリコプター、つまり回転翼機というのはローターの回転により無理矢理揚力を生みだして飛行しているものですから、固定翼機と比べればエンジン出力の割には速度や航続距離がどうしても低くなります。その分空中で停止するホバーリングや不整地への着陸能力など代え難い利点がありますので軍隊においては不可欠な航空機として運用されていますが、もう少し速度と航続距離を大きくできないかという議論は回転翼機が実用化された少しあとから考えられていました。
回転翼機の能力を根本から向上させるにはどうするべきでしょうか。そこでローターの部分を可動式として、離陸は垂直離陸か短距離で離陸、離陸後にローターを前に倒して動力をそのまま推進へ使えるようにする設計としたのがティルトローター機です。速度は300ノット、UH-60やSH-60といった回転翼機の速度が200ノットですから1.5倍になっていますし、航続距離も資料によっては2200km、空中給油を受ければ3700kmと大きくなっています。完全武装の兵員24名を迅速に移動させる事が出来て、その分構造が複雑になりましたから、調達価格は開発国であるアメリカでも一機当たり7000万㌦、55名が搭乗出来る陸上自衛隊のCH-47JA輸送ヘリコプターの1.5倍もの高価格となりました。しかし、航続距離と速度が大きい点から海兵隊がMV-22として、空軍がCV-22として、海軍がHV-22として約460機を導入、海兵隊はこのうち360機を調達する計画です。
この機体が試験中に事故が相次いで、墜落事故の発生時に乗員の犠牲者が相次いだ訳で、この機体は欠陥機なのでは、と当時危惧されたのですが、V-22がMV-22として制式化される時点ではこれら問題は解決されています。2007年から実運用が開始されているのですが、目立って事故率が高い訳でもありません。海兵隊は台湾有事や朝鮮半島有事の際にはCH-53輸送ヘリコプターなどにより緊急展開する計画ですが、沖縄の普天間飛行場から直接飛行するには航続距離に限界があり、CH-46でも同様に厳しいものがあります。したがって途中で給油拠点を設けるか、強襲揚陸艦の支援を受ける必要があるのですけれども、MV-22であれば普天間飛行場、またはキャンプシュワブ近傍やホワイトビーチ沖合、那覇基地でもいいのですが沖縄本島から直接飛行展開することが可能となります。速度も大きくなっていますので展開までの時間は短縮され、台湾海峡や朝鮮半島に軍事的脅威が生じることを力強く抑止する事が出来る訳です。・・・、ちょっと模型で遊んでみた写真を載せてみました。
実はこのV-22,自衛隊にも配備しようという動きは過去にありました。海上自衛隊が艦載機として救難捜索用に導入しようという検討や、航空自衛隊の救難ヘリコプターとしての模索が行われました。しかし、V-22は開発計画が伸びてしまって実現には至らなかったのですけれどもね。仮に中央即応集団の第1ヘリコプター団にCH-47JAとともにすれば南西諸島における有事には、小牧基地の航空自衛隊空中給油機から支援を受けてという前提で、無着陸で南西諸島南端や沖ノ鳥島まで第1空挺団や中央即応連隊の部隊を緊急展開させることが可能です。もっとも、調達価格は直輸入で導入したとしてもどうしてもCH-47JAよりも高価格となってしまい、AH-64D戦闘ヘリコプターにも比肩しうる、またはより高価になる可能性がありますから、ユニットコストで確実に上に、・・・、陸上自衛隊が本腰を入れて緊急展開部隊を創設する方針を打ち出して、政治が予算面で強烈に支援しない限り難しいでしょうけれども、装備されれば力強い能力を発揮してくれるでしょう。
海上自衛隊が、救難機ではなく哨戒機として導入すれば、それは凄い事になったでしょう。哨戒機型は米海軍で模索されたようなのですが、こちらは実現しませんでした。固定翼哨戒機並みの速力と航続距離があるのですけれども、ヘリコプターのように吊下げソナーを降ろして海面下の音響情報を調べるという固定翼機では絶対不可能な任務を遂行することが出来ます。ひゅうが型や22DDHに数機搭載するだけで物凄い能力を発揮できるでしょう。全通飛行甲板なので短距離滑走が可能ですし、ね。もっとも、整備補給体系が物凄く複雑化しますし、P-1の航続距離向上がありますので、そこまでの労力を掛けて導入するという必然性は無いのですけれども、ね。それにホバーリングは物凄い燃料を消費しますので、吊下げソナーの運用を行うには幾分かの制約が掛かるのでしょうし、この点、留意すると利点ばかりではないのですけれども対潜任務装備をモジュール式として汎用性を高めれば用途はあるのかも、米軍では早期警戒機型を研究していましたのでこちらを実現すればDDHにAEW機を搭載できる、という利点にも繋がるのかも。
航空自衛隊が救難ヘリコプターの後継機として導入すれば、・・・、つい最近まで現役だったV-107と同型であるCH-46を海兵隊はMV-22として代替しようとしているのですけれども、捜索救難機と救難ヘリコプターの用途を一機で、・・・、こちらもホバーリングなどの面で果たして救難ヘリコプターの任務に対応できるのかという点もあるのですが、まあ、あり得ましたね。回転翼機の技術はかなり成熟した段階に来ていまして、今後そくりょくや航続距離について次の段階へ進もうというのでしたら、どうしてもティルトローター機のような新機軸へ進むしか方法はありません。欠陥機、と一部で言われているのですが日本でも過去に導入の模索は行われているのですし、付け加えればティルトローター機は回転翼機と異なるもので、その技術的模索で生じた事故、ということもできます。先月、アフガニスタンで一機喪失があったようではありますが、他の航空機でも同様の事態はあるのですし、この点は慎重に観てゆく必要はあるのだろう、と考えます。
HARUNA
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