◆現状のE-2C空中警戒態勢維持には限界も
八八艦隊による警戒態勢、という記事を以て2012年の尖閣諸島防衛特集の末尾としたのですが、本日は領空侵犯に対するもう一つの視点を考えてみましょう。
領空侵犯事案、航空自衛隊創設以来初の中国機による領空侵犯を契機として航空自衛隊はE-2C早期警戒機を空中警戒に充て、宮古島など航空自衛隊のレーダーサイトでは探知できない中国大陸沿岸部からの航空機接近に備えており、年末には浜松基地のE-767にも動きがあった、という話が流れています。この詳細は別の話として、自衛隊は空中から警戒管制を行う早期警戒機と早期警戒官制機を装備化していて間違いが無かったという事は確かです。
ただし、北大路機関では2007年1月3日にE-2Cが運用開始より20年を経たことを挙げ、そろそろ後継機を考えなければならない時期となった、と特集しました。あれから六年、まだ後継機の話が上がらないのですけれども、滞空時間に限界のある新型のE-2Dを導入するのか、別の航空機を探すのか、E-767に搭載しているAPY-2レーダーは生産終了となっていますので、E-767増勢という選択肢はありませんが、E-2Cの後継機は考えなければなりません。
E-2C早期警戒機は航空自衛隊に13機が配備され、青森県の航空自衛隊三沢基地に一機一機が頑丈なシェルターに収容され、運用されていますが、この機体は1976年にソ連の最新戦闘機MiG-25の函館空港への亡命事案があり、この際に千歳基地を緊急発進したF-4EJがMiG-25を継続追尾できなかったことから防空体制の強化が叫ばれ、国防会議により導入が実現しました。これによりE-2Cは13機が導入されたのですが、二桁台の早期警戒機を運用しているのは米軍やロシア軍を除けば日本くらいのもの。
航空自衛隊は90年代にシーレーン防衛の強化を期し、E-2Cに続き警戒管制能力を有するE-767を導入しました、飛行時間と航続距離が長く、探知距離と追尾目標の処理能力も高いこの機体は導入当時日米貿易摩擦が背景にあると批判されましたが、今日的には高い洋上での空中警戒管制能力を有することが出来たとして評価されるべきでしょう。特に導入当時と異なり、警戒管制能力が島嶼部ということで薄くならざるを得ない南西諸島での警戒監視には、この種の航空機は不可欠です。
南西諸島での緊張増大を契機として航空自衛隊は一定数のE-2Cを那覇基地に展開させています。先月那覇空港を利用した際に誘導路からは格納庫に三機程度のE-2Cが見えましたが、沖縄より中国大陸寄りの洋上に進出し警戒管制に当たっているとされ、宮古島のレーダーサイトからは地平線が直進する電波への障害物となり感知できない中国機へ備えている模様、既に尖閣諸島付近へ接近する航空機を素早い対応で領空侵犯を阻止させる対領空侵犯措置任務へ寄与しました。
しかし、ローテーションを考えますとE-2Cの飛行時間は空母艦載機という設計であるため小型軽量が低い維持費と調達費により世界中で多くが配備運用されていることから、E-767と比べれば常時警戒態勢を構築することは難しいやもしれません、というのも早期警戒機は高い高度から索敵するため地上のレーダーサイトよりは地球の水平線上から低空を接近するを早く感知できるのですが、その距離は無限ではありませんので、脅威を探知できる空域まで進出しなければならない。
つまりE-2Cは那覇基地上空や那覇基地近傍で警戒するわけではなく、もう少し前進、那覇基地から尖閣諸島までの距離は410km程度ですが、E-2Cの探知距離は560kmです。この数字を見ますと150kmも余裕があるのですが、戦闘機が那覇基地を緊急発進し展開するまでの時間的よゆうを見込まなければなりませんので、更に150km程度は進出しているやもしれません、常時滞空するためには交代機を前進させる必要がありますから、三時間半程度の間隔でE-2Cを離陸させる必要がある、1日に当たり飛ばす機数が大変ではないでしょうか。
ここでE-2C早期警戒機とE-767早期警戒管制機の性能を見てみましょう。まず、滞空時間はE-2Cが6時間強でE-767が15時間強、航続距離はE-2Cが2854kmでE-767が10370km、探知距離はE-2CのAPS-125の2000型改修で560kmでE-767のAPY-2は800km、もっとも探知距離に関しては運用条件で異なるので参考値にしかならないのですけれども。この通り、E-767の凄さが見えてくるのですが、現状のE-2C後継機をどうするか、もっとE-767を揃えておけばよかったという点に尽きます。考えられるのは米E-3早期警戒管制機の日米共同開発、というところあたりが落としどころという、これは私の考え。
E-2Cの後継機、E-767が肝心のAPY-2レーダーの生産終了で取得出来なくなったのですが、代わりの航空機は例えば傑作旅客機ボーイング737原型のトルコや豪州に韓国が導入する737AEW&Cが筆頭に考えられるのですがこれは航続距離が5200kmでE-767の半分、ビジネス機を原型としたG-550AEWやSAAB340AEWなどもありますが、これも滞空時間、広大な洋上を長時間に渡り運用する航空自衛隊の任務には合致するのか、ということにもなるわけで、安易に結論は出そうにありません。
ただ、南西諸島警戒という一点からは、中国軍が短距離弾道弾により先島諸島を射程に収めていると同時に、沖縄本島の基地は中国空軍が200発程度を有する射程1500kmのDH-10地上発射型巡航ミサイルや150機を運用するH-6爆撃機に4発を搭載するYJ-85巡航ミサイルの脅威に曝されており、中国大陸を発進する低空目標を早期に探知するためには、やはり地上のレーダーサイトだけではなく、もっと別の手段をもって警戒に当たる必要を認識すべきでしょう。南西諸島近海に護衛艦のピケットラインを構築するのか、AEWヘリコプターを離島に何機も分散配備するとか、そういう考えは反対なのですが。
選択肢には、OTHレーダー、短波帯を使用し電離層に反射させることで通常のレーダーに用いられるマイクロ波よりも遙かに遠い探知距離が3000km前後という超水平線レーダー、いわゆるOTHレーダーによる警戒網を構築する必要も検討の価値はあります。OTHレーダーは冷戦時代にアメリカ本土の北極越えの爆撃機進入への備えや、ソ連本土でのアメリカミサイル実験監視用、豪州本土でのアジア地域における東側の航空機運用監視等に用いられ、自衛隊も防衛庁時代に喜界島への配備を検討してきました。OTHレーダーならば、現実的にどうにかなるかもしれない。
ただ、早期警戒管制機などと比べOTHレーダーは、いくつかの重大な問題があります。第一にテレビ電波などに干渉し携帯電話などの周波数帯が使えなくなるという問題、これは21世紀の今日ではかなり大きな問題です。具体的には日本国内へ米軍がOTHレーダーを試験配備したことが1970年代にありましたが、こちらもテレビ画像に影響が出たため国会で問題となり撤去されました。電波は有限資産ですので、短波帯を防衛用に使おうにもすでに過密状態となっている今日、特定のテレビや携帯電話会社を排除することも出来ません。
第二に、相当広大な面積に短波電波塔を構築しなければなりませんので用地確保が非常に困難であり、確保できる地域と電波干渉の問題を双方解決できるかという問題、洋上に設置すればいいのではないか、という視点もあるやもしれませんが、南西諸島では台風が接近する時期があります、例えば普天間飛行場移設問題で目がフロート案が却下された背景には台風がありましたし、前述の電波障害から地形が風を遮るほどに沿岸部に置くことも出来ませんから、この問題は大きい。
最後の一つが索敵角度と精度が限定されるため、沖縄県のような大陸に近すぎる地域に配備しても、必要な面積が近すぎて警戒できない、ということで、例えば日本国内で電波障害の無い大陸寄りの我が国排他的経済推移以内に配置する、という方策は、近すぎて目標が見えない、という結果にもなります。これらの問題点を解決するには、例えば沖縄から一定距離がある小笠原諸島南鳥島のような角度の面から索敵が可能で、電波による影響をある程度緩和できる人口密集地からの距離を有する地域に配備することくらいでしょうか。
幾つかの話題に分け、様々な案を提示したのですが、どう転んでも現在のE-2Cによる常時警戒態勢の維持、ということは現実味がないことに変わりありません。そして現段階では政府用小型機による散発的な尖閣諸島への接近に留まっているのですが、沖縄本島への巡航ミサイル脅威は、中国政府が那覇基地や嘉手納基地の無力化が国家の必要な措置を採るうえでの必要な選択肢である限り増大し続けるでしょうし、尖閣諸島へ戦闘機が接近する事案も当然考えられるわけです、どういう視点で対応するのか、考えてゆく必要はあるのです。
北大路機関:はるな
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