世界遺産が拡大を続けている。世界遺産の登録が始まった1972年にはわずか12件だったものが、2024年現在では1,223件が登録されているという。増え続ける世界遺産をどう考えるのか?識者の考えを聴いた。
8月24日(土)午後、札幌パークホテルにおいて北海道世界文化遺産活用推進実行委員会が主催する「ユネスコ世界文化遺産講演会」が開催され、参加した。
講演会は2部構成で、第1部が講演、第2部が対話という形で実施された。
第1部の講演の方は日本ユネスコ協会連盟理事長(法政大学名誉教授)である鈴木祐司氏が「世界遺産登録:登録の過程と問題点」と題して講演された。
第2部の対話は、「世界遺産の警鐘と持続可能な世界」というテーマのもとで、西山徳明教授の進行で進められた。
鈴木氏の講演の要旨は次のようであった。1972年の世界遺産条約に始まる登録活動は1978年に12件が登録されて以来、2024年現在では1,223件(文化遺産962件、自然遺産231件、複合遺産40件)に達している。うち我が国は文化遺産が21件、自然遺産が5件で、計26件である。
鈴木氏が問題点と感じている第一は「量的な拡大」だという。発足当初は100件を上限とする案もあったというが、現状は発足当初の目論見は跡形もない状況となっている。第二は世界遺産の分布の不均衡だという。現状は先進国、ヨーロッパの占める割合が全登録の約半数を占めているという事実である。第三は世界遺産委員会の構成がやはりヨーロッパが中心となっている現状だという。
そうした状況において、より根本的問題として文化財保護の思想がヨーロッパに由来し、制度設計もその思想に基づいたものであるという点だという。さらには、登録の対象や登録過程において「政治的問題、歴史問題」が絡んできているという事実だという。こうした状況を私たちはどう考えるべきか?と問題提起された。
※ 講演された鈴木佑司氏です。
第2部の対話は、少し変わった形で進行された。というのは、この講演会に出席を希望したという二人の高校生が登壇して、高校生が持つ世界遺産に関する疑問を専門家(鈴木祐司氏と西山徳明氏)が答えるという形で進められた。
高校生の質問が多岐にわたったこともあり、この点についてのレポは割愛するとして、鈴木氏が問題提起した点について、お二人の考えが披歴されたのでそれをレポすることにしたい。
※ 対話の進行、助言をされた西山徳明氏です。
お二人の結論としては、「世界遺産が増えることを恐れることはない」ということだった。
世界には価値ある物件がまだまだあるという。特にヨーロッパ以外では…。後進国と言われる国々には登録申請に至る過程に大きなハードルが立ち塞がっている現状があるという。
問題は価値ある物件にどれだけの “絶対的価値” があるかどうかだという。世界遺産のそもそもの設置目的が “世界平和” に寄与することがそもそもの目的であるという。世界遺産を管掌するユネスコ憲章の前文には「心の中に平和の砦を築く…」とあるという。鈴木氏は、ユネスコは「非力だけど無力ではない」と表現された。世界の平和が遠ざかっているような印象さえ感ずる今、ユネスコの存在には大きな意味があるともいえる。そうした中では
量的な拡大を続ける世界遺産の登録数などそれほど大きな問題ではない、ということなのかもしれない……。