日本最後の秘境とも称される知床半島。その付け根に位置するShari(斜里)は自然・動物・人間が共存する地域である。そこに突然現れた全身真っ赤に染まった「赤いやつ」。赤いやつはヒトとケモノのすきまに生まれた謎の生命体だったのか?あるいは?
今夜、シアターキノにおいて午後7時から上映された「Shari」を観て、その後帰宅してからこのブログを書いている。なぜいい歳をした爺がわざわざ夜遅くの映画を観に行ったのか?それはこの映画が午後7時開始の部しか上映がなかったこと、さらに上映後にこの映画の監督・主演の吉開菜央氏と撮影を担当した石川直樹氏によるトークショーが行われるというプレミアム上映会だったからだ。
※ トークショーのお二人です。珍しく「写真や動画をどうぞ」という嬉しい配慮で撮らせてもらいました。
私がなぜこの映画に興味を抱いたかというと、一つは斜里という地にノスタルジックな思いを抱いたからだ。というのも、現職時代に斜里町の隣町に8年ほど勤めた経験があって懐かしさを覚えたことがある。もう一つは、撮影を担当した石川直樹氏に私は早い時期から関心を抱いていたことが二つ目の理由である。私は石川氏を冒険家として認識していた。彼は23歳の時に当時としては世界最年少で七代大陸最高峰登頂の記録を持ち、さらに2000年には世界の若者たちと北極点から南極点まで人力で踏破した経験があるなど、その世界では注目された一人だった。しかし、その後冒険的なことからは一歩退き、自然を対象とした写真家として活躍されているようだ。
※ 映画に出演した子ども達(斜里朝日小の子ども達?)
映画はオープニングでいきなり斜里岳の馬の背から山頂を仰ぎ見るショットから始まる。斜里岳に何度か登った経験のある私には嬉しいショットからの始まりだった。その他にもウトロのオロンコ岩、斜里の海岸線など懐かしい風景が何度も画面に現れた。
映画の内容の方は、斜里の自然の中で暮らす人々が何人も登場し、それを「赤いやつ」が聴き取り、ナレーションとして説明する流れで進む。特にストーリーのようなもものはなく、私には「いったい主題は何なんだろう?」と思わせられる難解さを伴ったものだった。トークショーで監督の吉開氏から80数枚の絵コンテを見せられた石川氏は「ぜんぜん分かんねぇ」という感想をもったと語っていたが、私も映画を観ながらしきりに考えながら画面を観続けた。
※ ウェブ上から拝借したお二人です。
結局、映画を観ながら、そしてトークショーを聴きながら考えたことは、一つの生命体である「赤いやつ」は、自然豊かな斜里が少しずつ変わりつつあるのでは?という疑問を提示したのではないか、と考えた。その傍証として、撮影をした2010年の冬いつも斜里の海岸に接岸する流氷がなかなか接岸せず、地元の人たちが「今年は変だ」と呟くシーン。あるいは地元漁師が海岸に流れ着く異常なゴミの多さに嘆くシーン。そして、画面とは直接関係ないシーンで、ナレーションが斜里の冬に雪が少ないのに、遠くイラクの国で雪が降ったことをナレーションで入れたこと、等々…。
※ 映画館のロビーには「赤いやつ」の衣装が展示されていました。斜里町の人たちのワークショップで制作したとのことでした。
監督・吉開は直截的に地球温暖化について糾すのではなく、画面を通して婉曲的に観る者が感じてほしいと思いながらの制作だったのではないだろうか?と私は考えたのだが…。