昔二月朔日は初市が賑わったらしい。「歳序雑話」を見ると次のようにある。
二月朔、以此日号初市矣、市鄽 (ミセ)之交易驚耳目、諸国七道之所産、悉持来而莫不売買也、諺曰、当市風者以無疫難矣、
以是府中郊外之幼童、莫不至也、雑遝(トウ)宛如織矣、市中無尺寸之明地矣、有往有帰、有首指作花矣、有手持吹矢矣、肩
蜻蜓(トンボ)網、被鬼面引雉車、求打駒(独楽)買造馬矣、錐根・長刀・張鼓・太鼓・鞨鼓・毬打・玉手毬・竹駒・皿駒等、随意求
之、費金銀不可勝計也、女子者求張箱、犬張箱以下雛之具等、又見物之老若、有被頭巾、傾編笠、曳手携杖徒行者、又有
為父母求几杖、為子姪求書筆者、又有求博奕之采(サイコロ)買淫泆之書、寔(マコトニ)其求異哉矣、蜀江之錦、呉郡之綾、至此
莫不得求焉、寛仁豊饒之所至乎
一方、番太日記(一名髭爺日記)には、新壱丁目初市之事として次のようにある。
前かとは伊藤屋表より飛人形・あやをうる。とふわ/\とゆふてうるなり。あやは一結四五文、飛人形は九文・拾文也。又それ
より先はかざりむま・いろ紙・唐紙にてかさり見事也。みな引馬也、拾四五間見せ(店)あり。五分位より三匁四五分迄段々にあ
り。むかへがわは人形ひいな(雛)見せ。京見せとてかみさし・はな紙入等小間物色々あり。吉文字屋表はみな茶店多く、みな
市茶とうふてかうなり。又内より袋持参者も多し。又花いろ/\菊・かきつばた・梅・桜・石竹花。其むかへたばこ見せなり。新田
たばこ・じや香たばこ・松尾・白石とていろいろあり。是も五六間見せあり。其時分のきくの花は寺(原-脱字)町に上手あり。迎
大工町にもあり。其時分の人形ははりぬきにて極々わろし。獅子がく(顎)にても極々ふできなり。今は下り人形よりもよろし。
此外は今にかわる事なし。池上せんだんきじも同じ。此時分とひ人形・あや、竹村より惣八とゆふ者、むすこにあやをとらせくる。
此むすこ、きりやうよく能わかし(若衆)なり。あやとる事極々名人なり。親父三味せん引うたふなり。
(歌の歌詞が書かれているが略す)
このように初市は、侍・町人分け隔てなく春の到来と共に待ち望まれたものであった。その賑わいぶりが目に浮かぶ。