すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

職人と飲めば美味いんだ

2022年07月11日 | 読書
 毎回見ていたわけではないが楽しみな番組の一つだった『太田和彦のぶらり旅 いい酒いい肴』。吉田類の方と比べると、やや理屈に傾く時があるとはいえしみじみと味わい深さもあった。酒場ライターの元祖のような人だと思う。独特の語り口で、様々なジャンルの酒飲みと語らう対談集なので、面白くないわけがない。


『みんな酒場で大きくなった』(太田和彦  河出文庫)


 6人の方々とそれぞれに名店と称されるような酒場で、店や酒の話、そして仕事の話などを、気ままに語る。かつて一緒に仕事をしたという椎名誠の回だけは「生ビール」のみというのも特徴的だが、それ以外には食した肴の品名なども記されていて雰囲気がある。こういう本を読むと、正直「東京人」にまだ憧れる。


 2018年7月 北海道③「釧路湿原を見まわす」

 まるで傍に座している感覚で読み味わえたのは、角野卓造の回と東海林さだおの回。自分が描く劇団人や漫画家としての典型が、語りに出てきている気がした。芝居をする人は反応が早い、切り返しにもひねりがある。絵を描く人はいい相槌を打ちながら、よく観察した一言を発するというような…次の一言も笑える。

角野「やってみたけど、結論は出ねえ、という結論がでましたねえ」

東海林「5000円じゃ、なんかかやらしい。4000円って、誠実味が感じられるよね」


 巻末に著者へのインタビューが収録されている。自分がなぜあの番組を好むか、うっすらわかった気がする。もちろん「酒肴」への興味があるが、やはり出演者(太田)のデザイマインドが魅力的だ。居酒屋の「味」をどのように伝えようかと腐心しているからだ。最後に「職人気質」という語で締め括ったのもわかるなあ。