すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

物語が嗅覚を刺激する

2024年12月23日 | 読書
 久しぶりに小説を、と思って手に取ったのが、この名作Re98『蛍川・泥の河』(宮本 輝 新潮文庫)この作家には一度手を出したが、そんなに馴染みがあったわけではない。しかし、さすがにこの作品は心に染み入った。昭和30年代という時代。当時の大阪、北陸富山という舞台を、色濃くイメージさせてくれた。


 なんといってもニオイがする。それは匂いであり臭いだ。土地の自然環境だけでなく社会環境も景色となり、全体的に強く迫ってきた。現代とはかなりかけ離れた人間の機微を感じさせる。自分も少しだけ懐かしく思うのは、貧しさ、醜さそして意地のような部分が心底にかすかに残っているからではないかと考えた。




 ことし8冊目のドリアン著作本。Re99『あなたという国』(ドリアン助川 新潮社)。自身のバンドやニューヨーク滞在経験をもとに、劇的な展開のある一種の恋愛小説。なんといっても9.11という日付が登場する段階で予想できる筋はあるのだが、その背景として様々な国際、社会問題を包めながら構成された物語だ。


 「ドリアン」という名は、くさい詩を書くからというエピソードがもとになっているが、宮本輝作品を読んだ後に手にすると、明らかに無臭の感が否めない。いや異臭と言ってよい。ニューヨークのイメージが貧困な自分を棚上げしつつ、騒音や極端な明暗のフラッシュ、金属、コンクリートのクラッシュが頭の中に浮かぶ。


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