すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

参参参(二十二)娯楽も感動も

2023年05月18日 | 読書
 皐月、それなりに読書が進む。


『風の港』(村山早紀  徳間書店)

 この作家の単行本は読んでいないと思う。人気のあるシリーズ物もあるが手は出なかった。「空港」を舞台にした連作短編。4話とエピローグで構成されている。空港は親しみを感じるほどの経験値はないが、多様な人が行きかう場として取り上げやすい設定を持つ。自分が読んできたコミックなどでも振り返ると結構多い。あとがきで作者は自らの体験から「郷愁が漂う場所」「自由の象徴の場所」といった対照的な表現を使っている。それらが交錯しあう場所で、背景に飛び立つ機体が様々な角度や陰影を想像させてくれるので、ドラマチックになるのだろう。個人的にはずいぶんと冗長な表現をする書き手だと思った。中味にハマれば深くなりそうな気配…。





『透明な螺旋』(東野圭吾 新潮社)

 図書館の年間貸出ランキングで2位に入った小説。ファンはすぐに飛びついたのだろう。「ガリレオ」シリーズなので、どうしても俳優を思い浮かべて展開させてしまう。細かい心情描写があったとしても、さらっと流れてしまうような印象を持ってしまった。今回は最後に湯川の出自が明らかになるわけだが、これは映像化になるのかしらん…若い時の役は誰にするのだろう…そういえばTVではかつて三浦春馬がやっていたな…などと余計なことばかり考えてしまう。しかしさすがに因縁づけが上手いし、するするっと読ませる。娯楽小説として楽しめる一冊でありましたな。



『愛は愛は愛は』(時実新子  現代川柳編集部)

 川柳作家として敬意を持っているのは二人しかおらず、その一人。そもそもの出遭いの句は、このアンソロジーにも当然取り上げられている「ほんとうに刺すからそこに立たないで」…これほど情念を感じさせてくれる一節にはなかなかお目にかかれない。男女の情愛に絡む一瞬を激しくきりとる感覚が、びしびしと伝わる。改めて読み直して、本質をつかむ表現の巧みさにまた感心して、15句ほどノートに書きつけた。そこから三つ。
「手が好きでやがてすべてが好きになる」
「別れねばならない人と象を見る」
「空に雲 この平凡をおそれずに」