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話や芸は熱い方がいい

2021年08月21日 | 読書
 神田松之丞(現 神田伯山)を観たのは、数年前のテレビ番組が最初だった。お笑いバラエティに「今話題の…」という形で登場した。お笑いに講談かと思ったが、その表現力に少し驚いた。寄席に何度となく行ってはいるが講談はあまり記憶がなく、新鮮に思えたのかもしれない。目つきと声が実に印象的だった。


『絶滅危惧職、講談師を生きる』
 (神田松之丞・著 聞き手・杉江松恋 新潮文庫)




 松之丞の半生記といっても差し支えないだろう。単行本が2017年、この文庫が2年後に発刊されている。文庫には「伯山襲名」に至る経緯も載っており、読み応えがあった。あの個性がどんなふうに培われてきたか、メディアで自ら語っている通り、講談にかける本人の覚悟がどれほどのものか、よく伝わってくる。


 学生時代はひたすら落語、講談を客として聴くことに日々没頭したという。それが意図的だったという点が、何より松之丞の本質を表わしている。だから前座時代の在り様も特殊だし、その後の歩みも戦略的だ。生意気に突っ走る自分を一方では俯瞰しつつ、仲間にも恵まれ、着々と積み上げてきたように見える。


 しかし、その道筋を支えているのは、やはり「芸」に対するほとばしるような熱い思いにほかならない。聞き手の杉江による構成の上手さもあろうが、熱のこもった語りのような調子で進む文章だ。「熱く語れることこそ愛情の証し」と、先日観た番組でも感じた。その対象にいかに深く浸れるか、それも才能の一つだ。


 松之丞が講談のネタや話芸について述べた後に続けて、聞き手はこう書く。「優れた物語は(略)どこを切り出してもおもしろいのではないだろうか」。講談や落語の話芸が凄ければ、途中からでも楽しめるように、「文芸」にもそれはあてはまるという。そんな読み物や出し物との出逢いを、この後も楽しみに待ちたい。


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