「師走の扶持」澤田瞳子
女薬師・真葛シリーズ第2弾。
先日読んだ「ふたり女房」の続編。
ネタバレありなので、未読の方は注意。
P15
真葛は常々、男とがむしゃらに肩を並べてはならぬとの自制を己に課してもいた。どれだけ奮闘しても、生まれ持った性は変えられぬ。また自分があまりに頑固な物言いをすれば、それに反発する者も現れよう。男女の分を弁えることが、むしろ欲する道への近道だと、聡明な真葛は気付いていたのである。
P104
血は水よりも濃いとの言葉があるが、血によってもたらされるものは、必ずしも幸せばかりではないのかもしれなかった。
P265
「どうかなさいましたか」
「いや、こなたにはとうの昔に亡くなった姉君がおわすのじゃが、そもじの物言いがふと姉君に似ている気がいたしたのじゃ。不思議じゃのう。顔かたちや声は、まったく似ておらぬと申すに」
ひどく温かな灯が、ぽっと胸に灯る。
自分の姪と知らずに対面している。
真葛は自分の血縁者の前に名乗り出る日が来るのだろうか?
読んでいて、とても心地よい気持ちになる。
人物設定、ストーリー展開、距離の取り方、いずれも私の好みである。
今後も読み続けたいと思う、シリーズ作品である。
【ネット上の紹介】
その病に、理由あり――。妊娠したという幼い娘が持参した丸薬の秘密。薬種屋の主が、仕入れの旅に出ないと言い出した理由。どんな薬を煎じても一向に治らない咳病とは……。京都・鷹ヶ峰で幕府直轄の薬草園を営む藤林家で養われた女薬師・元岡真葛が、薬草を通じて隠れた悩みを解きほぐす。『若冲』の著者が贈る、心に沁みる絶品時代小説。