「あきない世傳金と銀 源流篇」高田郁
高田郁さんの新シリーズ。
前回は「料理」だったが、今回は「商い」である。
時代は享保期、不況のまっただ中。
そのあたり、景気低迷している現代に通じる設定になっている。
以下、ネタバレありなので、未読の方ご注意。
ヒロインは幸。
学者の子で摂津の津門(つと)村に生まれる。
(この地名は現在も西宮に存在する。ちなみに尼崎と西宮の境界を流れるのが武庫川)
幸は、七夕の願いに『知恵』を授かりたいと書いた。
しかし、いくつもの不幸が重なり一家離散。
本も読めなくなり、勉強も続けられなくなる。
幸は天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出される。
P118
「袖口の火事」で「手が出せぬ」
「赤子の行水」で「盥で泣いてる」、つまり「(銭が)足らいで泣いてる」
「饂飩屋の鎌」で「湯ぅばっかり」、つまり「言うばっかり」
治兵衛からそんな例を教えられて、幸は声を立てて笑う。津門村ではついぞ聞かない言い回しだった。
小さな女衆が笑い転げる様子を、治兵衛はにこやかに眺めたあと、
「大坂は商いの街だす。尖ったことも丸うに伝える。言いにくいことかて、笑いで包んで相手に渡す。そうやって日日を過ごすんだす」
P150
「五鈴屋はどうやら、とんでもない拾いものをしたようだすな。お前はん、ひょっとしたら大化けするかも知れん」
P278
「何処ぞに、徳兵衛の手綱をしっかり握り、商いにも知恵を貸せるような、この五鈴屋の暖簾を守り、商いを広げてくれるような、そんな娘は居てへんやろか」
とても面白かった。
今回のシリーズも期待できる。
次作を楽しみに待っている。
【おまけ】
菊栄のキャラクターが良い。
一見、浮世離れしたのんきさ、でも、奉公人に対する思いやりもある。
決断力もあり、見切ったら、即、実家へ帰る行動力もある。
年齢が違うが、菊栄と幸の友情が続くと期待したい。
【蛇足】
P126
火鉢の灰や仏壇の香炉の灰は、油断すると固くなるため、篩にかけて柔らかくする必要があるが、粉まみれになるのでお竹もお梅も幸任せだった。それゆえ、髪を手拭いで包み、「灰を篩ってきます」と断りさえすれば、中を離れることも許された。
灰かぶり=シンデレラ、である。
この物語は「シンデレラ・ストーリー」ですよ、と言う事か?
これは「サイン」なのか?
【ネット上の紹介】
物がさっぱり売れない享保期に、摂津の津門村に学者の子として生を受けた幸。父から「商は詐なり」と教えられて育ったはずが、享保の大飢饉や家族との別離を経て、齢九つで大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出されることになる。慣れない商家で「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、番頭・治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく。果たして、商いは詐なのか。あるいは、ひとが生涯を賭けて歩むべき道か―大ベストセラー「みをつくし料理帖」の著者が贈る、商道を見据える新シリーズ、ついに開幕!