「関越えの夜 東海道浮世がたり」澤田瞳子
思った以上によかった。
複雑な感情を呼び起こす短編集。
サブタイトルにあるように、東海道を行き交う人びとの話。
それぞれの話がリンクしている。
バタフライ効果という用語があるが、ひとつのエピソードが、次の話に波及していく。
場所も東海道をどんどん西に向かい、最後は京都で終了する。
だから、最終話は京都弁で進行する。
P217
有夫の婦と通じること――すなわち密通は重罪。官吏に捕縛されれば、男女ともに死罪が定めである。だだしこれはあくまで表向きで、悪評を避けたい大店や武家では、密通が明らかになっても内済で決着をつけるのがほとんどであった。
この内済禁は金一枚、つまり七両二分が相場とされ、「間男七両二分」なる言葉が一般化していたほどである。
いずれの世も、人間のすることは同じ、か?
死罪であった江戸時代でさえ、このような状態だったのか・・・。
箍のゆるんだ現代なら、不倫が横行するのも諾なるかな。
P308
「何か用どしたらはっきりお言いやす。別に、気ぃ悪くしまへんさかい」
明らかな険を言葉尻に感じとったのか、土間で働く、小僧たちが横目でこちらをうかがっている。しかしそれすら目に入らぬほど、お初の心は波だっていた。
(この辺り、京言葉による表現が巧い・・・でも、私だったら『気ぃ悪ぅしまへんさかい』と表記するかも)
【ネット上の紹介】
両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。旅人はおおむね、道を急ぐもの。おさきの視線に気づいた若侍は来島主税と名乗る。人探しのため西に赴く途中だというが…(表題作)。東海道を行き交う人びとの悲喜こもごもを清冽な筆致で描く連作集。