「夢も定かに」澤田瞳子
奈良時代の宮廷が舞台。
そこで働く女官たちの生活と仕事に焦点を当てた作品。
藤原氏と長屋王の対立を背景に、生き生きと描写される。
P8
氏女――とは後宮に勤務する、畿内豪族の娘。これに対し、幾外諸国の郡司の子女は采女と呼ばれ、ともに一族の期待を担って働く下級女官であった。
氏女・采女のほとんどは出仕から5、6年もすれば後宮を退き、官吏の妻になったり故郷に戻ったりする。しかし中には十年、二十年と仕事を続け、叩き上げの女性官吏となる者もおり、諸姉などはまさに後者の代表であった。
P251
あたしは男ってのは、物事をそんなあっさり割り切れない生き物だと思っているの。
P252
男は大なり小なりみな、女子に頼って欲しいと思っている。自分にそれだけの価値があり、何事も成し遂げられると自惚れているからだ。さりながら女は自らの立場を弁え、相手にかような甘さを見せられぬと自戒するゆえに男女の仲はすれ違う。(このあたり、著者の男性観が感じられて興味深い)
P256
しかしこの華やかな後宮のただ中で、夢も定かに見られぬ身だからこそなお、自分たちは各々の生き方を全うするため、足掻き続けずにおられぬ。いつか夢を掴むその時まで。(これがタイトルの由来)
【感想】
とても面白かった。
もっと評判になって、読まれて良い作品、と思う。
現在の価値観を元に描かれているので、非常に親しみやすく、読みやすい。
当時の生活がリアルに感じられるのはいいことだと思う。
しかし、1000年以上前の奈良時代の話。
現在とは異なる価値観、行動原理、風俗習慣をもっと出しても良かったように思う。
例えば、春世が太らないようダイエットを意識するのには引っ掛かりを感じる。
ライトノベルなら、これで100点というか、それ以上の完成度。
でも、歴史小説なら、「違和感」を少し感じさせてほしかった。
(親しみやすさと違和感の両立・・・私は無茶な欲求をしているのかもしれない)
【ネット上の紹介】
郷里を離れ、天皇の身の回りの世話をする采女としてやってきた若子。同室にはしっかり者の笠女、数々の男性と浮き名を流す春世がいた。器量は十人並み、何事につけても不器用、優柔不断な若子も、次第に宮廷内で生き抜く術を身につけていく。だが藤原一族の勢力が伸張しつつある時代にあって、若子も政争に巻き込まれ…。