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「13・67」陳浩基

2018年01月26日 21時01分27秒 | 読書(小説/海外)
「13・67」陳浩基

次の6編が収録されている。

1.黒と白のあいだの真実…2013年
2.任侠のジレンマ…2003年
3.クワンのいちばん長い日…1997年
4.テミスの天秤…1989年
5.借りた場所に…1977年
6.借りた時間に…1967年

普段ミステリを読まないのだが、本作品は、香港を舞台にしている。
しかも、2013年から1967年まで、順に年代を遡っていく。
そこに惹かれた。読むしかないな、と。

P66
ロー警部、愛情と憎しみは非常に近接した感情だ。

P122
「家は小さいほど楽だ。電気代もかからない」

1997年香港返還の年
P174
ツォウの家族はすでにイギリスへ移民していた。彼もまたイギリスの居住権を取得していたが、香港に残ったまま、警察官の仕事を続けていたのだ。香港では、祖国返還後の社会情勢や生活環境の変化に疑問をいだき、海外への移民を選択するものが多かった。イギリスでは、数百万人の香港市民にイギリス国籍を与える議案が否決されたが、政府は香港政庁の公務員が大量に流出して、政策執行能力が落ちることを懸念し、イギリス居住権取得の施策を打ち出した。資格を満たした公務員の申請を受け入れ、安心して香港で仕事を続けられるようにというのだ。したがって、一部の公務員は、家族がすでにイギリスかイギリス連邦の国へ移住しており、子どもたちにいたっては早くより海外留学し、現地で仕事を見つけるものが多かった。(1997年前後の香港事情は「転がる香港に苔は生えない」に詳しい)



【おまけ】
タイトルの「13・67」の意味は、2013年・1967年の事と思う。
それにしても、構成がすばらしい!
最終話「借りた時間に」P480「豊海プラスチックって知ってるか?」から始まる文章。
これを読んで、第1作「黒と白のあいだの真実」を振り返ると、何とも(感無量)としか言えない気分になる。トリック、人間ドラマ、社会情勢が複雑に交錯した作品だ。

【ネット上の紹介】
華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!
現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。
本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデェンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。
2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化件はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。