百醜千拙草

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2008-04-18 | 研究
MITのノーベル賞科学者、利根川進氏が日本の理研で研究室を立ち上げるという話を聞きました。二年前までMITのPicower Institute for Learning and memoryのディレクターを務めていたのですが、(おそらく)新規教官雇用にからむスキャンダルのために辞任しました。そのころ、MITでは教員の性差別、人種差別に関する複数のスキャンダルがありました。一つは黒人のJames Sherleyというステムセルの研究者がテニュアの申請を却下された事件で、彼は自分の業績とNIH資金の獲得(栄誉あるPioneer Awardを受けていました)から、テニュア申請が却下されるのは腑に落ちない、人種差別に違いないと主張し、ハンガーストライキを含む様々なキャンペーンを行いましたが、結局、MIT側は、あくまで業績の内容から判断したと突っぱね、結局、彼はボストン郊外にある小さな研究所に移らざるを得なくなりました。NIHのPioneer Awardの獲得というのは立派なもので、受賞者がその研究成果を発表するPioneer Award SymposiumがNIHで開かれるのですが、発表会の告知では、彼だけが所属機関が空欄になっているいう異常な状態でした。現代アメリカ構造言語学の重鎮、Noam Chomskyら複数のMITの教授もSherleyを支持しましたが、決定は覆ることはありませんでした。ちょうどその騒ぎがおさまりかけた頃、MITのジュニアのポジションに応募してきたAlla Karpovaという女性研究者がいて、ポジションがほぼオファーされるという段階まできていました。噂によると、利根川氏ともう一人が、十分な理由なく強硬に反対していたようで、利根川氏は、この候補者本人に、オファーを受けないようにという恐喝めいたメールを直接書いたとのことでした。利根川氏本人がどう言い訳したのか覚えていないのですが、ジュニアで希望に燃えてMITでがんぱろうとしている候補者に対して、将来の所属することになる研究所の所長が脅しめいたメールを書いたのですから、許されざる暴力だと思います。利根川氏の素行については、いろいろな噂を聞きますから、本人を知るものにとっては、またか、という程度なのかも知れません。しかし、このスキャンダルが各紙に大きく取り上げられた結果、どうもそれが所長の辞任に繋がったようです。ただしこの時もMITは何ら懲罰的処置を利根川氏に対して取る事はありませんでした。結局、Karpova はMITには就職せず、Janelia Farmと呼ばれるVirginiaにできた研究施設にポジションを得たようです。Janelia Farm Research Campus の名前は、多分まだあまり知られていないと思いますが、これは、あのHoward Hughes Medical Institute (HHMI)の新しいキャンパスです。HHMIはアメリカのprivate の医学、生物学研究財団としては、最大の機関で、HHMI 研究者に選ばれるというのは、中堅の研究者にとっては、非常な栄誉であると同時に莫大な研究費が十年にわたって約束されるという、皆がうらやむポジションです。そのHHMIが、選りすぐった精鋭研究者を集め、最先端の機器を投入して、Virginiaの田舎の山の中に造ったエリート研究所がJanelia Farmなのでした。HHMI研究員は通常、どこかの大学なり研究施設の所属している人が、各施設のノミネーションを経て、選考されるので、HHMI研究員となっても所属機関が変わるわけではありません。しかし、このJanelia FarmはHHMI直属の研究施設であって、いってみれば、タイガーマスクが修行したという「虎の穴」みたいなところです。田舎のど真ん中にある最高の研究施設で、頑張ってユニークな研究成果を出した後は、いずれは研究者の少なからずが普通の大学などの施設へ出て行くことを期待されています。そういう意味でも普通の大学とは随分違っています。そのJanelia Farm構想を指揮したのが、HHMIのプレジデントのノーベル賞科学者、Thomas Cechでした。彼は、自分の研究室のあるコロラド大学とHHMIのあるメリーランドを毎月往復しながら、8年間presidentを務めたのですが、今回、「普通の研究者に戻りたい」(と言ったかどうか知りませんが)、 もっと研究に没頭したいと、HHMI presidentの辞任を表明しました。彼のその「普通の研究者に戻りたい」願望が、どうも昨年、彼がHarvard総長就任の申し出を蹴った理由のようであります。
次期HHMIのpresidentは誰が務める事になるのでしょうか。Thomas Cechクラスの人材がそう簡単に見つかるとも思えません。私がHHMIのお世話になることはないでしょうから、誰が次期presidentになろうと、まあ人ごとではありますが、野次馬気分で経過を見守りたいと思います。
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