百醜千拙草

何とかやっています

教育

2020-03-03 | Weblog
この数年、結構ひどいスランプが続き、低迷していました。あれこれ、足掻いても蟻地獄の深みにはまるばかり、本来のプロジェクトは迷走し、出てくるのは解釈不能なデータのみ、気合を入れた実験は成功せず、新しいプロジェクトはスクープされ、雑用だけは増え、時間は容赦なく過ぎていく、という状況は、平常心を養う良い修行ではありました。(スランプはまだ継続中ですが)振り返れば、このスランプのおかげか、生まれて初めての経験というのをいろいろしました。こういう時だからこそ気分転換になるかと思って、行ったことのない学会や場所に出かけたり、やったことのない分野の勉強をしたりする機会になりました。

この新しい分野に関しては、思いがけず、深入りしつつあります。ちょっとやってみたい実験をするために測定機械を探したら、隣のビルに機械が存在することがわかったのですが、その使用には、業者をよんでトレーニングを受けてくれと言われ、連絡。すると業者側は参加者を6人以上集めないとトレーニングはできない、ということで図らずもこのワークショップのオーガナイザーとなってしまい、会場を交渉し、実験設備を揃え、人を集め、トレーニング用の細胞を調整し、ということをこの数週間をかけてやる羽目になっています。私はちょっとした予備データが欲しいだけだったのですが。
 この歴史ある分野に関しては、ちょっとパラパラと論文を読んでみて、自分の無知さを思い知らされました。それで、基礎から学び直すために、レビューの論文を読んだりする一方、Youtubeで学生用の講義ビデオみたいなものをいろいろ見ています。このところ、ジムで30 分ほど走る間にも、トレッドミルについているインターネットでその手のものを1-2本見ていますけど、感心しますね。Ninja Nerd Scienceというプロジェクトをやっている医学生(?)のビデオ シリーズはなかなかよくできていて、多分、これを毎日、繰り返して見ていけば、医学部で学ぶ基礎医学の知識の多くは半年ほどで身につくのではないかと思います。野球帽を逆にかぶった兄ちゃんの情熱的な解説がなかなかいいです。私が学生のころにはもちろんYoutubeの教育ビデオなどなかったですから、教科書を開いて、そこに書いてある事項をひたすら覚えるというのは大変苦痛でした。今は、寝転がったり運動しながらでもビデオを見て知識が身に付けることができ、わからないことはすぐネットで調べれば瞬時に知識に手が届くすばらしい時代です。

こうしたYoutubeの教育ビデオを見ていると世の中には、ものを教えるのが上手い人が大勢いると感心します。きっと現役若手の大学生や教員がピチピチの知識を伝えようと工夫を凝らして動画を作成しているのだろうと想像しますけど、私のようなものにとっては、本当にありがたいことです。

一方で、知識をこんな風に人に教えるのは、私にはできないな、と思いました。私の場合、何かを理解したら、その知識を使って自分の興味のあることを進めて行きたいという気持ちはありますけど、学んだものを人に伝えて、学習の興奮を分かち合いたい、という気持ちにはなりません。同様に出版してしまった仕事について話したりするのも面倒だな、としか思いません。どうも、自分が満足すればそれまでで、学んだことや発見したことを人に伝えたい、とか興奮を分かち合いたい、とか若い人に知的興奮を与えたい、とかいう他者に働きかける意欲に乏しいようです。学びたいと思う人の助けになれるのなら、それはもちろん喜びです。

「打てば響く」なら打つのも楽しい、しかし、相手がヌカならば、釘も刺したくない、と思うのは人情でしょう。私は、この業界に長年いますけど、これまで関わってきた学生やポスドクや技術員の人の中で、学びの意欲に溢れた人はあいにくごく少数でした。時折、興味を示す人もいますが、その興味が長続きする人も稀です。学びの意欲を持って継続して努力できる人、というのは極めて限られており、そういう人は私のような人間の指導を必要としません。勝手に道をみつけて伸びていきますからね。

結局、人間はラクをしたがるもので、自分で目標設定し自己を律して努力することができるごく一部の優秀な人を除けば、いくら良い環境があってアドバイスしても、自主的に学びたいと思う人は少ないようです。世の中、いろんな人がいないと成り立ちませんから、みんながみんな優秀でも困るので、それでいいのでしょう。

とはいうものの、教育の技術は研究にとっても大切だとは思います。結局、研究はスモールビジネスで、研究の意義をわかりやすく人に伝えて、研究成果やアイデアを買ってもらわないと回っていかないわけです。大多数の興味のない人にいかに商品を買ってもらうかというセールス活動は、遊びざかりの若者にいかに学びに興味を持ってもらうか、というのと大きな共通点があると思われます。
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