バーチャル学会無事終わりました。私の発表は二人で1時間15分のセッションで、私が前座で一般的な話をしたあと、二人目の人が専門の研究の話をするという形です。質問時間が30分以上とってあり、食品会社がスポンサーで二人目の人の話に繋ぐ必要上、栄養を絡めた話を含めたのですけど、私は栄養とか代謝とは専門家ではないので、知らないことをいろいろ聞かれたら困るなあと思っていたら、案の定、結構厳しい質問を受け、うちのいくつかには「知らない」と返答せざるを得ませんでした。そうした質問の一つに関して聴衆の中にいたとある偉い教授からはChatでつい最近の論文を紹介されました。見てみると責任著者はEric Landerでした。もともとは数学者で遺伝学者に転身した人です。華々しく活躍し、Broad Instituteの仕切り役を長年やって、今年からはバイデン政権の科学アドバイザーを努めているわけですが、いまだに自分の研究室から遺伝学者として論文を出しているのだなあ、と感心しました。そのBroad Instituteを設立した慈善家のEli Broad はつい先月末に亡くなったのでした。
学会での質疑では「知らない」というかわりに「It's a good question」と言ってお茶を濁すという文化がありますが、私はこの言葉を使うのに抵抗があって、知らないことを聞かれたときは、つい「知らない」と言ってしまいます。きっと頼りない発表者と思われたでしょうね。でも、そもそもしゃべった内容の半分については自分の研究とは無関係で、専門家ではないですし。ま、知らないことを知らないと言う方が、ヘタに答えると都合が悪いから「お答えは控えさせていただくきます」と回答拒否する自民党の大臣よりはマシだと思います。
今回、この学会は初参加なので、ついでに他の発表も見てみました。この分野のアメリカでの学会と違って、東欧の国からの参加がそこそこあるのが興味深かったです。バルカン半島の国やロシアなどから演題がでていますが、アメリカでの学会ではこういう国からほとんど参加はありません。ヨーロッパ以外ではインド、中国、日本、韓国などからも参加者がありました。インドからの発表もアメリカの学会ではあまり見ませんので、多分、地理的な問題でヨーロッパの学会の方が参加しやすいのだろうと思います。今回の学会の参加者は1000人ぐらいということで、アメリカでのこの分野の学会の 1/3ぐらいではないかなと思います。情報が瞬時にして世界で共有される時代、しかもバーチャル会議になっているのに、同じ分野でありながら研究者はヨーロッパとアメリカで棲み分けているようで興味深いです。来年の学会はヘルシンキの予定らしいですけど、開催できるのでしょうか。ヘルシンキのあるフィンランドは遺伝病のメッカで、私がEric Landerの仕事を始めて知ったのも、ある原因不明の遺伝病のフィンランドの家系を彼が開発した遺伝子解析法を使って解析し原因遺伝子を突き止めた論文ででした。次世代シークエンス法どころかヒトゲノム配列の情報もない時代の話です。
一方、今年の秋のアメリカでの学会はハイブリッドになりそうです。学会事務局はアメリカでのワクチン接種の進行具合などからアメリカ国内は秋には大規模イベントは安全に開催できると読んだのでしょう、リアル学会をアメリカ国内参加者向けに行い、外国人参加者はオンラインでの参加という形でやる予定のようです。しかし、思うに、これだと多分盛り上がらないのではないでしょうか。ただでさえ、落ち目の分野で、近年の学会では、アメリカのムダに広い会議場は寂しい雰囲気が漂っていましたから、参加者が半減するであろう次のハイブリッド学会では、かなり会場の規模を小さくしないと観客のいないオリンピックみたいになるのではないかと想像します。