百醜千拙草

何とかやっています

アデュカヌマブ認可の意味

2021-07-20 | Weblog
ちょっとこれはあとを引きそうだなと感じたので少し。
先月のFDAの承認以来、強い批判にさらされているアルツハイマーの抗体医薬、アデュカヌマブに関して、ツイッター、科学雑誌や新聞からも、怒りが混じったようなコメントが流れてきています。これはBiogenが開発した抗アミロイド抗体医薬で、アメリカではほぼ二十年ぶりに認可されたアルツハイマー治療薬という事情もあってか、とりわけ大きな関心を集めているようです。

アルツハイマー痴呆は非常に大きな社会的問題で根治的な治療法がありません。数々の製薬会社が挑戦して敗退していった分野でもあります。Biogenは神経疾患薬治療薬開発を中心プログラムの一つとしているバイオテク大手であり、もし今回、アルツハイマー治療に成功するということになれば、非常な成功と繁栄を約束されるということになります。

私は、この分野は疎いのですけど、十年前ぐらいだとアルツハイマーの原因がベータアミロイドだと主張するグループとタウ蛋白だと主張するグループに二分されていて、アミロイドの病因的意義もはっきりしていなかったように思います。しかし、この病気は深刻であり治療法がないという現状がありますから、患者さん、その家族や施療者には、藁にもすがりたいという思いがあると思います。事実、この経緯を述べた記事(リンク)ではFDAの神経科学部ディレクターは、深刻で膨大な患者数にもかかわらず治療法がない現状をコメントしていますから、すがれるなら藁でもすがってみたいという患者側のプレッシャーをFDAは感じていたのかも知れません。



この薬には複数の問題があります。第一に同様の抗体は他社が以前に臨床試験を行い、撤退しいていること。それから、この薬は二年前の臨床試験の中間評価で有効性が認められないと中途で中止されたにもかかわらず、その時のデータを再解析してBiogenはFDAに申請を出したこと、そしてこの申請は昨年末にFDAの外部専門家委員会で検討され、有効性とともに試験データのプロセスなどに疑義が呈され、ほぼ満場一致で、薬として問題が大きすぎるという結論が出たにもかかわらず、先月その専門家の意見を覆して、一転してFDAの迅速承認制度という特例の制度でゴーサインが出されたということです。

データでは、薬の効果は微々たるもので、重篤な副作用の可能性もあり、臨床試験そのものにも問題があるということで、専門家は非常に激しい口調で今回のFDA承認を非難しています。加えて、オハイオのクリーブランドクリニックやNYのマウントサイナイ病院というトップクラスの医療機関は、病院として、この薬を患者さんに投与することはしない、という声明を出したというニュースもありました。つまり、専門家は、高額で副作用の危険性があるのに、微々たる効果しかない怪しい薬だと判断したということです。

どうしてそんな薬が例外的処置によって迅速承認されたのか、その辺りが不明瞭であることが一つの大きな批判の原因であり、それが明らかにされなければ、この件は長く燻ることになるかも知れません。一方、日本のエーザイ(Biogenとの共同)を含む数社(前回臨床試験で撤退した会社も含む)が同様の抗アミロイド抗体医薬の臨床試験を実施、計画中とのことで、この薬の認可やその後に蓄積されるであろう効果や副作用が、後発医薬品の帰趨に大きく影響を与える可能性があることを考えると、このFDAの判断には多少にもポリティカルなものがあったのではないかと思わざるを得ません。いずれにしても、薬そのものは数年以内に消滅する運命だろうとは想像しますけど、製薬会社としてはより多くのデータをとって開発にかかった投資費用を少しでも回収したいと思っているでしょう。

患者側にとっては、効かない薬に年間数百万円を払うというのは、馬鹿げていると思いますけど、当事者にとっては希望の灯火なのだろうと思います。しかし、いくら希望という効果があっても、その根拠に正当性がないものを売って金儲けをするのは罪であろうと私は思います。霊能者を騙って困っている人に壺を売りつけるようなものだと言えば言い過ぎですか。こうした実験的な薬は利潤追求が一つの重要な目標である民間の開発に任せるのではなく、公的機関が臨床応用研究と試験を行うべきなのではないだろうかと思います。ま、公的機関だからといって、資本主義原理、市場原理主義で動いているのには違いはないのですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする