百醜千拙草

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ベルリン ポスドク法

2021-12-17 | Weblog
以前ちょっとだけ立ち寄ったベルリンは楽しい所で、有名なガラス張りドームの議事堂やベルリン大聖堂などの観光地はもちろん、ちょっとした駅前の多国籍の屋台が集まる広場なども、どこに行ってもコスモポリタンな活気があって、若い時ならきっと住んでみたいと思っただろうと思うような街でした。しかし、そんなベルリンであっても(あるいは世界中どこであっても)、ポスドクは、屋根の上のバイオリン弾きのように生きています。

しばらく前の話題。先月のScienceのフロントページから。

9月、ベルリンの議会は、多くの若手研究者を悩ませる不安定な雇用状況に対処するため、急進的な一歩を踏み出した。、、、
 この規定は、議員たちが大学の代表者たちに相談することなく採決したもので、市のポスドクの労働条件を改善するものだと支持者たちは言っている。
しかし、雇用の凍結、辞任、ベルリンの研究の中心地としての地位を失うという予測など、混乱が起きている。、、、
 他の国々の若手研究者と同様、ドイツのポスドクは、限られた教員の空席をめぐって厳しい競争にさらされている。また、時間的な制約もある。2007年に制定された時間的制約に関する法律は、博士号取得者が不安定な契約に縛られるのを防ぐためのものである。しかし、生産性の高い多くの研究者を学問の世界から追い出してしまうという意見も多い。
 ベルリンの法律は、ドイツ研究省のウェブサイトに掲載されたビデオが引き金となった。2007年のポスドク期限の法律を宣伝するためのものだったが、研究者の怒りをかった。このビデオは、ハンナという名のポスドクの物語で、この法律は、ハンナのような年配のポスドクに、必要であれば学外の仕事に移ることを奨励し、若い研究者に機会を与えるものだと説明している。、、、
、、、6月24日には、ドイツ連邦議会でこの問題が議論されるほど注目を集めた。ベルリンという都市国家を統治する議員たちは、さらに踏み込んで、すでに制定されていた法案に永住権に関する条項を挿入したのである。
、、、批評家たちは、この法律には、ベルリンに1000以上あるポスドク職のほんの一部でも常勤職に転換し、将来さらにポスドクを雇用するために必要な資金が含まれていないと指摘している。「その目標は高く評価できる。しかし、そのためにはもっと資金が必要だ」と、大学の指導者を代表するドイツ学長会議の会長であるペーター・アンドレ・アルトは言う。
 、、、その一方で、この法律が影響を及ぼす4つの研究集約型大学のうちの1つであるベルリン自由大学は、すべてのポスドク採用を中止している。
 、、、この法律が施行されれば、大学の大規模な再編成が必要となり、他の目標が達成できなくなる、と言う。例えば、学部が正規職員を増やすと、連邦法とは別の規則で、より多くの学部生を受け入れなければならなくなり、さらに予算不足に陥る。また、この法律が施行されると、大学の教授陣が他からポスドクを呼び寄せようとした場合、自動的に正社員として採用されることになるので、大学の能力にも影響が出るだろう、、、。
 ドイツ以外の研究者も注目している。ストラスクライド大学の上級講師で、アーリーキャリアの科学者を擁護してきたミゲル・ジョルジは、この法律は欧州連合内で変化を求める他の声と一致していると話す。例えば、彼が2016年に共著した宣言では、短期プロジェクトへの資金提供から、より長期的なポジションへの資金提供へのシフトが提言されている。それが機能するためには、「資金提供のパラダイムを変える必要がある」と彼は言う。

問題は、議員たちが長期的な効果を理解しないまま、「制度の革命を1つのパラグラフに詰め込もうとした」ことだとクンストは言う。、、、制度に手を加えることは、6年制限によって引き起こされた意図しない害と同様に、下流に影響を及ぼす、、、

ポスドク問題は世界的な問題で、経験を積んだ博士研究者のサプライと彼らが本来就くべき安定した研究職のポジションのデマンドの乖離によって起こされています。日本では、大学院からポスドクというパスを推奨したのは、新卒者の就職機会の減少の問題を先送りするための時限爆弾つきの政策でありました。それが爆発したあと、予想された通り、日本政府は結局は自己責任ということで成り行きにまかせ、高学歴貧困という問題を作り出しました。
 ドイツでのポスドク期限や、今回のポスドクの永久職化というのは、高学歴の経験を積んだ研究者の生活やキャリアを保障する目的であるのはわかりますけど、欠けているのは長期的かつ包括的視点でしょう。数人の人がコメントしている通り、決定的に足りないのは「カネ」です。ポスドク一人当たりの補償を厚くすれば、資金がそれに伴って増えないのであれば、より多くのポスドクか誰かをクビにする必要があります。つまり、競争はこれまで以上に激しくなり、ポスドク職にさえつけない博士が大量に出る可能性があります。また、そうしてポジションを手に入れたポスドクがハズレだった場合は二重の意味で痛いです。

解決策はカネをなんとかするか、博士プログラムを縮小するしかないと思います。それによって「生産性」が落ち、科学技術の「競争力」が落ちるとしても、私は個人の幸せは、国家の競争力に優先すると思います。ドイツはEU中央銀行を支配しているとは言え、ドイツの問題解決のためにEUのカネを刷るわけには行かないでしょうから、資金はどこかを削って回すしかないでしょう。
 一方、日本ではカネを刷ってなんとかするという手があります。何なら、ポスドクや大学問題もニューディール政策のネタに使えばいいです。ちょうど、オバマがリーマンショック後にやったようなばら撒きを長期的計画の下にやればよい。カネを刷って大学や研究関係、学生、せっかくですから全国民に広くばら撒けば、彼らはカネを使い、モノやサービスを買い、大学をに授業料を払い、さまざまな会社も人々の生活も潤います。一人10万円といわず、100万円ぐらいとりあえず、ばら撒きましょう。100兆円ぐらいですか。どうせ日銀が政府口座に数字をチョイと入力するだけのことで、キャシュレスの世の中、お札を印刷する必要さえないです。管理通貨制下での実体のない「カネ」なのですから、緊急事態を乗り切るのなら、もっと管理に融通をきかせればいいと思うのですけど。
 だいたい、日本の経済の6割以上は内需ですから、国民に使うカネが乏しければ経済は成長するわけがありません。この状況で大企業にいくらカネを注いでも内部に溜まるだけでトリクルダウンしないのだから、直接国民に無差別にばら撒いて、ボトムアップに澱んでしまったカネの流れを刺激しないとムリです。大学にドーンと資金援助して、ポスドクや教員の研鑽がムダにならないようにポジションを作ると同時に長期的には大学の規模や数を人口動態にあわせて徐々に縮小して均衡を保つことを目指せばいいのではないでしょうか。

しかし、財務省と与党は「プライマリーバランス」信仰が染み付いているようですから、まずは政権を変えないとダメですね。
コメント
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