というわけで、ちょっとした愚痴のつもりでしたが、思いのほか、ピア レビューと論文出版の話が長引いてしまいました。
この論文出版の矛盾だらけのシステムは崩壊寸前だと思います。遠からず、研究発表の方法は変わっていくでしょう。コロナによって学会がオンライン化したことによって人々の科学コミュニケーションへの意識もこの二年で随分変化したのと同様に、従来のピア レビューと(主に)商業雑誌をプラットフォームとする研究成果の発表スタイルも、何かのきっかけ一つで激変する可能性があると思います。
一昨年、NatureはOpen-accessオプションを追加する計画を発表し、その出版料が約$11,000になるという話がありました。この金額には多くの人にショックを与えましたが、多くの研究者の人は出版システムについて不満を持ちつつも基本的に受け入れざるを得ないという態度です。一方、商業雑誌のやりかたに異を唱えて声をあげる人も昔からいて、PLoSやeLifeなどの試みが行われて、一定の成功を得てはいますが、まだまだNatureブランドは強いです。
下のツイッターに投稿された動画は、眼科研究者兼コメディアンの人がNatureのこのOpen-access化について風刺したものです。
Nature does open access pic.twitter.com/j6kL1G3ZRX
— Dr. Glaucomflecken (@DGlaucomflecken) January 22, 2022
Natureの全ての記事をオープンアクセスにするのならともかく、一部の記事をオープンアクセスにしたところで、想像するに多くの人は研究施設や大学の購読を通じて記事にアクセスするでしょうから、Natureの購読料収入に大きな変化があるとは思えません。オープンアクセスを望む論文になぜこれだけ高額の出版料が必要なのか理解困難です。
この一人ショートコントの中で語られているように、研究者が、Natureなどの有名雑誌に発表したいというのは、それが研究者のカネやポジションや名誉に結びついているからです。論文サーチシステムが発達した現在では、知見をシェアするために購読者が多い雑誌を利用するという本来の目的は二次的なものになっていると思います。雑誌社、とくにハイ プロファイルな商業雑誌はそれを利用してビジネスをしているわけですが、そもそも税金が主な原資であるアカデミアの研究の発表のために雑誌社に、一本150万円近くの掲載料を払うことが正当化できるでしょうか。Natureに載せるためなら高額の掲載料も喜んで払う研究者がいるから、NPGはこのレベルの額を設定するのだと思います。
オンラインジャーナルであるNature Communicationsが$5,000以上の掲載料を正当化しようとした時のロジックも妙なものでした。他の雑誌でもカラー印刷料などを含めれば、それぐらいの費用になるからその値段は高くはないというような議論で正当化しようとしていましたが、そもそもNature Communはオンラインジャーナルですからね。多分、Natureの上位雑誌は、オンラインジャーナルのNature Communが$5,000以上するのだから、紙媒体でも発行するNature上位雑誌のコストはその二倍が適正だとでもいうのでしょう。
さて、NPGは極例でしょうけど、利潤を追求する商業雑誌を通じて、研究を発表することにそもそもの問題があると考える人も多いと思います。本来、雑誌社にとって雑誌のコンテンツは商品であり、消費者に商品を売ることと引き換えに購読料を通じて利益を得るというのが建前です。しかるに学術論文においては、雑誌社は発表のプラットフォームを提供しているだけで、実際には、研究者がコンテンツを無料で提供し、その編集を行い、掲載料を払い、そして購読料まで払っていますから、雑誌社の利益はほとんど不労所得であるとも言えます。
下の二年前のツイートは、論文出版を、乳牛(研究者)と牛乳(論文)と農夫 (出版社)に例えたもので、なかなか喩えが面白いので、ツイッターで盛り上がりました。
Cows make milk. They milk themselves.
— Ned Potter (@ned_potter) January 16, 2020
Other cows check the milk (for free).
Cows - get this - PAY THE FARMER to take the milk away.
Then the farmer (you won't believe this, honestly) sells the milk *back to the cows.* #academicpublishing https://t.co/mgYneu4Goi
このツイートのレスポンスをまとめた記事がありますので、興味のある人は見てみてください。レスポンスのツイートの一つにでてくる「鶏」は何の喩えなのでしょうか?
この論文出版プロセスは既得権益者の抵抗さえなければ、比較的簡単に解決できると思います。
長くなったので、つづきはまた次回にします。