百醜千拙草

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ビッグ エゴの時代の終わり

2022-02-15 | Weblog
このところ、アメリカのアカデミアで有名研究者のパワハラ、セクハラの不祥事が相次いでおりますが、今回のEric Landerの事件を元に、研究業界のこの問題について論じた記事を目にしたので、一部をDeepLしてみました。

The fall of Eric Lander and the end of science’s ‘big ego’ era (Eric Landerの転落と科学界の「巨大エゴ」時代の終わり)

バイデン大統領の主任科学顧問であったエリック・ランダーの辞任は、ある大統領の研究推進計画に対する打撃であるだけでなく、ある種の科学のやり方の死への行進の兆候でもある。それは「ビッグ サイエンス」ならぬ、「ビッグ・エゴ」とでも言えばいいのだろうか。

科学において、「ビッグ・エゴ」は必ずしも新しい現象ではない。しかし、ここ数十年の間に、学問的な議論に見られるような険悪な議論に対応でき、また、ゲノムのマッピングや細胞内の分子変化が癌につながる仕組みの解明など、ある種の科学的発見をするために膨大なリソースを集められる研究者の出現によって、この現象は大きくなってきた。

このような仕事を成し遂げるには、かつては人並み外れた個性と、科学の意味だけでなくそれを行うことの興奮を、一般人や寄付者、政治家に伝える能力が必要だと考えられていた。ランダーが得意としたのは、この世界であった。彼は何十年もの間、世界で最も引用される科学者の一人であっただけでなく、研究帝国を築いた管理者でもあったのだ。

このプロジェクトは、ノーベル賞受賞者であるジェームズ・ワトソンが中心となって進められた、最初のヒトゲノムの配列決定に向けた政府の取り組みであった。(E.O.ウィルソンはワトソンを「私がこれまでに会った中で最も不愉快な人間」と呼んだ。) 近年、ワトソンは人種差別的、女性差別的な発言で科学界の権威から勘当された。しかし、1990年代には、DNAの二重らせん構造の共同発見者として、まさに研究費の流れを作るために議会に呼ばれるような人物であった。

ランダーが関わった当時、彼は数学者で元ビジネススクール教授、マサチューセッツ工科大学のホワイトヘッド研究所で配列解析センターを立ち上げた人物である。、、、ランダーは、ホワイトヘッドにある大規模なDNAシークエンスセンターの監督を任されたが、官僚的な厳しい争いの末、これを新しい組織、MITとハーバードのブロード研究所(ちなみに、この組織は富豪のドナーの名前に由来する)に移したのである。そして、ランダーのリーダーシップのもと、ブロード研究所は、おそらく世界一の遺伝子研究の中心地となった。

、、、かつて遺伝子情報を自由に利用できるようにするために戦っていた時代には許されていた振る舞いは、現代のホワイトハウスでは許されなくなっている。彼が新しいキャンサー・ムーンショットやARPA-Hという政府内の新しい科学資金調達の仕組みを作ろうとしたことで、彼の昔の悪いやり方が蘇ったのだろう。もしかしたら、彼はいつだって嫌な奴であったのかもしれない。

、、、騒動の火種はたくさんあった。ランダーが遺伝子編集技術CRISPRについて書いた2016年の論文で、彼がブロードの努力を誇張し、後にノーベル賞を受賞したジェニファー・ダウドナやエマニュエル・シャルパンティエの貢献を最小限に抑えるかのように書いたことを、多くの科学者は、いまだに憤っているのだ。

ランダーの最近の行動がもたらす結果は、公的知識人としての役割を著しく低下させ、深刻な事態に至る可能性がある。すでに、米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)は、科学者の最大の集まりの1つである年次総会から彼を除名している。ランダーが次にどこに行くのか、また、ブロードに戻ることが歓迎されるのかどうか、疑問が残る。

、、、これまでなら公然と同僚をいじめたり見下したりしていた人たちも、自分の目標を達成したいのなら、もはや、そんなことはできないということを知ることになる。、、、ワトソンがついに完全に色あせたのは、2007年にイギリスの新聞に「黒人は白人ほど知的ではない」と発言してからだった。2019年に再び同様の発言をした後、彼は最後の名誉称号を剥奪されたのだった。
、、、、、
科学とは、結局のところ、野心と好奇心の上に成り立つものである。そのためにはエゴは必要だ。しかし、それはそれほど大きなものである必要はない。


というわけで、記事にもあるように、野心はエゴから生まれ、エゴは科学研究にかぎらず、人間の多くの行動のエネルギー源です。「自分が他人より優れた人間であると証明したい」という自己愛と自己顕示欲があるからこそ、彼らは必死に勉強して一流大学に入り、そして一流大学の教授や企業のトップを目指します。その目的のために強引なやり方で他人に犠牲を強いることもしばしばあります。しかし、それはもう許されません。

この手の典型的な野心あふれるビッグ エゴをもつ秀才連中と関わり合いになることが、私は少なからずありました。私はこの手の人々の発するアクというか毒気が苦手です。ツイッターでは、有名雑誌に論文が載ったとか、特大グラントを当てたなどという研究者のツイートが毎日ながれてきますけど、その短い文章のびっくりマーク付きのハイテンションなトーンから滲み出すエゴには時にウンザリします。基本的に野心的な研究者というのは自己顕示欲が強いものですが、一方で、そんなエゴの張り合いが、研究へのエネルギーになっているのは間違いないと思います。

しかしながら、かつてのように一部の成功者が強いリーダーシップを発揮して大規模プロジェクトを推進し、そのためには、彼らの独裁者さながらのエゴを野放しにして、人々が多少の迷惑を被るのもやむを得ない、という考えは許されない時代になりましたと思います。上下関係の構造が組織の機能に必要だった昔なら、愛の鞭やエッチな冗談と見過ごされたであろうものでも、今ではパワハラ、セクハラですから。という事情で、総じて、高齢の教授たちは、ランダーには同情的です。しかし、個人の権利は、国家レベルで達成される科学の成果よりも優先される時代です。私も目的を達成すること以上にとる手段が正しいことの方が大切だと思います。国家が科学技術の振興を図ろうとするのは、そもそもその国の人々の幸福に資するためです。しかるに、国の科学政策アドバイザーのランダーはその目的にもかかわらず、身近な数人の人々を直接不幸にしてしまいました。ホワイトハウスはそれを許さなかったのです。
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