2/7のScineceのフロントページで、悲しいニュース。今度は、バイデン政権のサイエンスアドバイザーとなったEric Landerの醜聞と辞任。主に女性の部下へのいじめと侮辱のこと。たいへん残念です。私が初めて彼の名を知ったのは、MITのWhitehead Instituteで遺伝学研究者として活躍していたころで、以後、学会などで、何度か彼の話を聞いたことがあります。非常に話がうまく、カリスマに満ちた人でしたので、こんな一面があることを知って驚きました。昨年のDS氏の事件といい、Whiteheadには白人男性優越主義みたいなものがはびこっているのでしょう。思うに、DS氏もセクハラで昨年失脚することがなければ、10年後にはLanderのような立場になっていたのでしょう。Whiteheadに限らず、この界隈の有名研究者のこの手の事件には枚挙がないわけで、つい二日前にも同じ町内の有名大学の教授がセクハラで訴えられたというニュースがありました。多分、これは氷山の一角のさらに一角にしか過ぎないのでしょう。
記事の中では、Landerは「ジキルとハイド」的性格で、外面がよい一方で密室では豹変するとコメントされていました。ま、野心的で成功街道の真ん中を疾走する研究者はエゴも大きく、自然と他人を見下すような態度が密室ででてくるのでしょう。残念ながら、人間的成熟と研究業績には相関はなく、アカデミアではむしろ有名な成功者ほどクソ野郎が多いというのは、この世界に長くいた私の印象ですが、今回の事件は、ただただ残念です。今回は、アカデミアの狭い世界ではなく、政権のアドバイザーという立場で、規模が違う扱いで、主要メディアで拡散されましたから、今後のBroad Instituteでの彼の立場にもかなり影響するでしょう。
さて、話を戻します。現在、ピア レビューが雑誌への掲載と結びついており、雑誌のランクによって研究者が評価され、その評価にそって金やポジションが配分されるというシステムになっているわけですが、その問題について思うところを書いてきました。
つきつめれば、資本主義の原理で世界が動いており、アカデミアの研究業界でも同じく、金と地位を奪い合う競争の勝敗を決めるために、研究者の評価をどう行うかということだと思います。今のシステムが不公平で非効率であることは論を待ちません。ま、資本主義というのは不公平さを作り出すことによって成り立っているわけですが、そこを置いておいても、そもそも、雑誌のランクで業績を評価するということが間違っていると思いますけど、どうしてもメトリックスが必要なのであれば、pre-printでも比較的公平な評価システムを導入することは可能だと思います。
実際的で具体的な妥協案として、例えば、pre-printサイトを使って、評価を受けたい論文は著者が数を限定して選択し、評価希望論文として発表し、評価は評価者のコメントに任せるという方法にすればどうでしょう。評価者は無論ピアになるわけです。そして、論文の責任著者には、評価を希望する論文数 x 3ぐらいの数の他のpre-print論文を実名で評価することを義務付け、ピアレビューの義務を果たさないと、投稿者の論文は評価されないようなシステムを導入すれば、うまくいけば、一つの論文は複数の読者によって評価されるでしょう。オープン サイエンスの時代、ピア レビューも実名で公開してやればいいです。そうすれば、レビューを書く方も相手の立場になってリーズナブルなコメントを書くでしょう。レビューを通じてレビューアの研究者も評価されるというオマケもつきます。また評価を受けることができなかった論文は、そのこと自体が評価となるようにすればいいでしょう。これなら、研究成果の発表を遅らせることなく評価を得られますし、評価は雑誌のレベルではなく直接論文に対して与えられることになると思います。また、出版のために、レビューアの要求するしばしば不必要で無意味な実験などをする必要がなくなります。
そもそも、所詮、研究者もカネやポジションを求めて競争せざるを得ないので、メトリックスが必要で、競争があるからメリットがあっても追求されない研究があり、競争があるので、信用できない論文が増えると考えられます。そして、信用できない、再現性がない、怪しい論文が有名雑誌に掲載された場合のネガティブなインパクトというのはバカになりません。STAPの時のようにすぐにインチキがバレるようなものならダメージは少ないですけど、再現実験が容易でないことを利用して意図的に不正を行ったベル研究所のJan Hendrik Schönのような人々も少なからずおりますから。
しかし、本当にこの金とポジション争奪競争は必要なのでしょうか。限られたリソースを効率的に振り分けるために競争が必要だ、という考えに我々は縛られすぎていると思います。本当にリソースは限られているのでしょうか?私は実はそうは思っておりません。この辺を話しだすと話の収集がつかなくなるので、今回は、これで一連のピア レビューの話は終わりにしたいと思います。