百醜千拙草

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2023-01-13 | Weblog
ヒストン修飾が遺伝子の活性を調節するという仮説から一大パラダイムが確立されたのは、おそらく2001年のDavid AllisのScienceの論文において、"Histone Code"という言葉が使われて広まったからではないかと思います。

修飾ヒストンの存在はもっと以前から知られていましたし、ヒストンの修飾が遺伝子への転写因子のアクセスに影響することも知られていました。しかし、世の中の流れというのは、一つの言葉で変わるもので、以後、最近まで続いたエピジェネティクス ブームはまさにこの言葉で始まったのではないか、と振り返ると思うわけです。そして、David Allisはエピジェネティクス研究のアイコンとなり、2018年にはラスカー賞受賞に至っています。

それから五年、彼の訃報を聞きました。71歳だそうです。71歳といえばまだ若い方ですけど、早い人は50前からボツボツと癌や病気で死に始めるわけで、私がAllisの年まで生きている確率は5割ぐらいではないだろうかと想像します。私がその年に達するまでの年数と、その同じ年数を遡った昔の頃のことを思い浮かべると、おそらく時間はあっと言う間に過ぎていって、気がついたら死んでいた、という状態になっているのではないだろうかと想像します。

約10年近く前に、ある珍しい脳腫瘍がヒストンH3の27位のリジンのメチオニン変異によって起こされることが彼のグループから発表されて、その後、この変異に関する研究が続々と続きました。このH3K27というアミノ酸の修飾の意義はヒストン コードの中でもとりわけ有名なもので、そのアセチル化は活性のあるエンハンサー領域を非常によく予測し、3メチル化は不活性な遺伝子領域を予測します。ヒストンH3は多くの遺伝子によってコードされていますが、その一つにだけでも修飾不能になる変異が起こるとがん化するぐらいのインパクトがあるというのが興味深く、私も自分の分野に応用して、簡単な実験をするために、彼の研究室からプラスミドを分けてもらった覚えがあります。あいにく、私は以来エピジェネティクスからだんだんと離れしまい、結構手間をかけてやった実験データもおクラになって、発表する機会を失い、そうこうする間にブームも下火となっていきました。それだけの水よりも薄い縁ですが、私にとってお手本とすべき研究上の先人の一人でありました。

科学者に限らず、どんな偉大な業績を残した偉人もいつかは死に、やがて歴史の中に忘れ去れれていき、教科書の片隅に名前が残るだけの存在となっていきます。でも、死んだ人のことを思うとき天国にいるその人の上には花吹雪が舞うのだそうです。
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