再生紙の偽装問題で、公正取引委員会は4/25、製紙8社に排除命令を出した。日経新聞Web版(NIKKEI NET 4/25)によると、
《古紙配合率を実際より高く表示したコピー用紙を販売したのは不当表示にあたるとして、王子製紙や日本製紙、大王製紙など8社に対し、景品表示法違反(優良誤認)で排除命令を出した。公取委は8社で15商品の違反を認定し、違反期間の出荷量は計23万6500トン(約260億円相当)にのぼった》
《公取委は8社に一般消費者に誤解を与える表示だったことを新聞などで公示し、再発防止を徹底するよう求めた。公取委によると、8社は2003年4月から今年1月にかけて、製品のコピー用紙の包装紙や包装箱、商品ラベルなどに、それぞれ「古紙100%」「古紙配合率70%」「30 古紙」などと、実際より大幅に高い配合率を表示。環境に配慮した商品として、一般消費者に誤認させた》。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080426AT1G2502U25042008.html
排除命令とは耳慣れない言葉だが、不当表示等を行った事業者に対し、公取が行為の差止め、再発防止、「お詫びと訂正」の広告の一般紙への掲載等を命じる行政処分(法的措置)のことだ。命令に従わない場合は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されるというものだが、偽装した製品の売上高・260億円に比べると、とても軽い「処分」だ。
発端は、日本製紙による年賀はがきの古紙配合率の不当表示だった(古紙配合率を40%としながら、実際は1~5%しか使っていなかった)。発覚したのは今年の1月で、偽装は印刷用紙やコピー用紙にも広がり、偽装を公表した製紙会社は計18社。多くは10年以上も偽装を続けており、北越製紙社長が引責辞任したほか、各社が役員報酬カットなどの処分をした。
発覚当初の報道では、製紙各社に反省の色は見られなかった。週刊ダイヤモンド(08.1.28号)の「再生紙偽装発覚に垣間見る製紙業界のホンネ」によると、
《長年、偽装が放置されてきたのは、業界全体に「悪いことではない」との認識があったからだ。「今回の古紙配合比率が違っていた問題は、わかりやすくいえば、牛肉を豚肉と言って売っていたようなもの。紙のユーザーは品質が高く、製造コストも高いものを安く手に入れられた。食品偽装とは根本的に違う。現場には偽装との意識が低かった」 再生紙偽装に手を染めていたある大手製紙会社の元社長は、本誌取材に開き直ったようにこう話すなど罪の意識は感じられない》
http://diamond.jp/series/inside/02_02_001/
「(高価な)牛肉を(安価な)豚肉と言って売っていた」というコメントには驚く。たとえ話をするなら「農薬と化学肥料まみれの野菜を、無農薬の有機野菜として売っていた」と言うべきだ。
製紙メーカーは、まさに「偽装の総合商社」だったのだが、このニュースは大ニュースであるにもかかわらず、その後の毒入り餃子事件や、現在の聖火リレー妨害問題などで、影が薄れてしまった。今回の排除命令で、再びこの問題が大きくクローズアップされ、トップの引責辞任など納得のいく処分が行われることを切に望んでいる。
私は勤務先で環境保全を担当しているが、コピー用紙は01年秋から徐々に「100%再生紙」(と称されていたもの)に切り替えていった。その頃、100%再生紙にも「白色度80」と「白色度70」の2種類があった。70のものは少し黄ばんでいたが(冒頭の写真の下の方に写っている紙)、漂白に使う薬剤が少ないとかで「エコマーク」がついていた。
※エコマークがついているのは、緑色の柄のA3用紙(白色度70)。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/f9/e608dcc214e21952eb74cac8276dd4bd.jpg
「お客さんに渡しづらい」「時間が経つともっと黄ばんで、字が読めなくなるのではないか」などの問い合わせが相次いだが、納入業者から聞かされていた説明の通り、「環境に配慮しているからと説明してほしい」「黄ばみは心配ない」などと答えていた。あとで「白色度70」の用紙はバージンパルプ製で、単に質の悪い「中質紙」だったことが分かった。紙の値段は同じだったから、豚肉を牛肉と偽って、同じ値段で売っていたことになる。
事件が発覚してから、私のところにもコピー用紙の納入業者や印刷会社が釈明に来たが、要するに「もともと、100%再生紙を企業が使うに足るレベルに仕上げる技術がなかった」「それなのに環境省は100%再生紙だけをグリーン購入の対象(=エコ商品)とした」「古紙を再生利用するよりバージンパルプを使う方が、コストが安いし手間もかからない」「製紙工場に立ち入って検査するわけではないから、製紙会社の表示を信用するしかなかった」「わら半紙のように、少しでもゴミが混じっていると消費者からクレームが来るから、古紙配合率を上げられなかった」ということだった。
今朝(5/1)のNHKニュースで環境省検討会は、官庁のコピー用紙は古紙100%未満でもエコ商品として認める方針だと報じていた。朝日新聞Web版(4/30)では
《製紙会社による再生紙偽装問題で、環境省の有識者検討会は30日、グリーン購入法に基づいて国や独立行政法人に義務づけているコピー用紙の古紙配合率について、従来通り原則は100%としながらも、間伐材や廃材など環境に配慮した原料を使えば条件付きで最大30%程度は古紙でなくてもよいとする報告案をまとめた》。
《報告案は、古紙100%製品の調達を最優先としつつ、国と同様にグリーン購入の方針を定めている地方公共団体や民間企業の需要量をすぐにまかなえず、供給不安で市場を混乱させる恐れがある点を考慮。現時点での考え方として環境配慮原料の上限を30%としたが、技術的に可能かといった課題もあり、環境省はさらに検討を重ねるとしている。グリーン購入制度の信頼性を確保するため、対象製品について抜き打ちで成分などをサンプル調査し、偽装が判明した場合は事業者名を公表することなども提案している》とある。
http://www.asahi.com/national/update/0425/TKY200804250277.html
製紙会社のウソ(=100%再生紙使用でも質の高い紙ができると偽った)、環境省の無知(=製紙会社の実力を知らなかった)、消費者の潔癖(=少しでもゴミが混じっていると不良品として突き返す)が三つどもえになった事態であった。もちろん一番悪いのは、10年以上も不当表示を続けてきた製紙会社である。それで社長が引責辞任したのはたった1社とは、あまりに手ぬるいと言われても仕方がない。
偽装のために失われた森林面積は東京ドーム1万個以上、という話もある。これで国民の「エコ意識」が萎えてしまうとしたら、それが一番問題だ。
《古紙配合率を実際より高く表示したコピー用紙を販売したのは不当表示にあたるとして、王子製紙や日本製紙、大王製紙など8社に対し、景品表示法違反(優良誤認)で排除命令を出した。公取委は8社で15商品の違反を認定し、違反期間の出荷量は計23万6500トン(約260億円相当)にのぼった》
《公取委は8社に一般消費者に誤解を与える表示だったことを新聞などで公示し、再発防止を徹底するよう求めた。公取委によると、8社は2003年4月から今年1月にかけて、製品のコピー用紙の包装紙や包装箱、商品ラベルなどに、それぞれ「古紙100%」「古紙配合率70%」「30 古紙」などと、実際より大幅に高い配合率を表示。環境に配慮した商品として、一般消費者に誤認させた》。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080426AT1G2502U25042008.html
排除命令とは耳慣れない言葉だが、不当表示等を行った事業者に対し、公取が行為の差止め、再発防止、「お詫びと訂正」の広告の一般紙への掲載等を命じる行政処分(法的措置)のことだ。命令に従わない場合は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科されるというものだが、偽装した製品の売上高・260億円に比べると、とても軽い「処分」だ。
発端は、日本製紙による年賀はがきの古紙配合率の不当表示だった(古紙配合率を40%としながら、実際は1~5%しか使っていなかった)。発覚したのは今年の1月で、偽装は印刷用紙やコピー用紙にも広がり、偽装を公表した製紙会社は計18社。多くは10年以上も偽装を続けており、北越製紙社長が引責辞任したほか、各社が役員報酬カットなどの処分をした。
発覚当初の報道では、製紙各社に反省の色は見られなかった。週刊ダイヤモンド(08.1.28号)の「再生紙偽装発覚に垣間見る製紙業界のホンネ」によると、
《長年、偽装が放置されてきたのは、業界全体に「悪いことではない」との認識があったからだ。「今回の古紙配合比率が違っていた問題は、わかりやすくいえば、牛肉を豚肉と言って売っていたようなもの。紙のユーザーは品質が高く、製造コストも高いものを安く手に入れられた。食品偽装とは根本的に違う。現場には偽装との意識が低かった」 再生紙偽装に手を染めていたある大手製紙会社の元社長は、本誌取材に開き直ったようにこう話すなど罪の意識は感じられない》
http://diamond.jp/series/inside/02_02_001/
「(高価な)牛肉を(安価な)豚肉と言って売っていた」というコメントには驚く。たとえ話をするなら「農薬と化学肥料まみれの野菜を、無農薬の有機野菜として売っていた」と言うべきだ。
製紙メーカーは、まさに「偽装の総合商社」だったのだが、このニュースは大ニュースであるにもかかわらず、その後の毒入り餃子事件や、現在の聖火リレー妨害問題などで、影が薄れてしまった。今回の排除命令で、再びこの問題が大きくクローズアップされ、トップの引責辞任など納得のいく処分が行われることを切に望んでいる。
私は勤務先で環境保全を担当しているが、コピー用紙は01年秋から徐々に「100%再生紙」(と称されていたもの)に切り替えていった。その頃、100%再生紙にも「白色度80」と「白色度70」の2種類があった。70のものは少し黄ばんでいたが(冒頭の写真の下の方に写っている紙)、漂白に使う薬剤が少ないとかで「エコマーク」がついていた。
※エコマークがついているのは、緑色の柄のA3用紙(白色度70)。
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/f9/e608dcc214e21952eb74cac8276dd4bd.jpg
「お客さんに渡しづらい」「時間が経つともっと黄ばんで、字が読めなくなるのではないか」などの問い合わせが相次いだが、納入業者から聞かされていた説明の通り、「環境に配慮しているからと説明してほしい」「黄ばみは心配ない」などと答えていた。あとで「白色度70」の用紙はバージンパルプ製で、単に質の悪い「中質紙」だったことが分かった。紙の値段は同じだったから、豚肉を牛肉と偽って、同じ値段で売っていたことになる。
事件が発覚してから、私のところにもコピー用紙の納入業者や印刷会社が釈明に来たが、要するに「もともと、100%再生紙を企業が使うに足るレベルに仕上げる技術がなかった」「それなのに環境省は100%再生紙だけをグリーン購入の対象(=エコ商品)とした」「古紙を再生利用するよりバージンパルプを使う方が、コストが安いし手間もかからない」「製紙工場に立ち入って検査するわけではないから、製紙会社の表示を信用するしかなかった」「わら半紙のように、少しでもゴミが混じっていると消費者からクレームが来るから、古紙配合率を上げられなかった」ということだった。
今朝(5/1)のNHKニュースで環境省検討会は、官庁のコピー用紙は古紙100%未満でもエコ商品として認める方針だと報じていた。朝日新聞Web版(4/30)では
《製紙会社による再生紙偽装問題で、環境省の有識者検討会は30日、グリーン購入法に基づいて国や独立行政法人に義務づけているコピー用紙の古紙配合率について、従来通り原則は100%としながらも、間伐材や廃材など環境に配慮した原料を使えば条件付きで最大30%程度は古紙でなくてもよいとする報告案をまとめた》。
《報告案は、古紙100%製品の調達を最優先としつつ、国と同様にグリーン購入の方針を定めている地方公共団体や民間企業の需要量をすぐにまかなえず、供給不安で市場を混乱させる恐れがある点を考慮。現時点での考え方として環境配慮原料の上限を30%としたが、技術的に可能かといった課題もあり、環境省はさらに検討を重ねるとしている。グリーン購入制度の信頼性を確保するため、対象製品について抜き打ちで成分などをサンプル調査し、偽装が判明した場合は事業者名を公表することなども提案している》とある。
http://www.asahi.com/national/update/0425/TKY200804250277.html
製紙会社のウソ(=100%再生紙使用でも質の高い紙ができると偽った)、環境省の無知(=製紙会社の実力を知らなかった)、消費者の潔癖(=少しでもゴミが混じっていると不良品として突き返す)が三つどもえになった事態であった。もちろん一番悪いのは、10年以上も不当表示を続けてきた製紙会社である。それで社長が引責辞任したのはたった1社とは、あまりに手ぬるいと言われても仕方がない。
偽装のために失われた森林面積は東京ドーム1万個以上、という話もある。これで国民の「エコ意識」が萎えてしまうとしたら、それが一番問題だ。