tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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言ったもん勝ち!?「経済波及効果」

2008年05月14日 | 意見
(財)南都経済センターが発行する「センター月報」をいつも愛読している。おりおりの経済情勢やトピックスを知るのに、とても重宝する地元メディアである。
http://www.nantoeri.or.jp/geppou/saisin.html

私が真っ先に開くのは、おしまいの方にあるコラム「ならやま雀」だ。研究員が持ち回りで執筆しているコラム(基本的に匿名)で、率直な意見やこぼれ話、調査の裏話などが載っていて面白い。ネット版に掲載されないのが残念だ。

08年5月号の同コラムに、興味深い話が載っていた。タイトルは《実感できない「経済波及効果」》で、筆者は「猿石 猿男」氏だ。要点を拾うと、

《経済波及効果は意外とアバウトな数字である》《実際の景気に与える影響は少なく、期待した程の経済効果を実感できないことが多い》《特定イベント等に関連したお金の流れを集計した予測であり、むしろGDPの内訳を示したものに過ぎないともいえる》。

イベントのおかげで支出が起こるといっても、それは他の消費を諦めたのかも知れないし(消費の代替)、単に消費のタイミングがズレただけ(需要の先送り・先食い)かも知れない。

経済波及効果はソフトが公開されているので、容易に産出できる。しかし来場者数や消費金額などの初期値(最初にインプットする数値)は《担当者の裁量で決まる部分も多く、条件等が変われば結果も当然変わる。数字が検証されることは非常に困難であり、「言ったもん勝ち」という面があるのも否定できない》。

中国電力のサイト内にある経済調査統計月報の「解説 経済波及効果とは?」にも、こんな話が載っていた。
http://www.energia.co.jp/eneso/keizai/research/kaisetsu0512_01.pdf

当初の売上げなど《初期値となる直接効果に対し,経済波及効果の比率は,全国ではほぼ2.2 ~ 2.6 倍,地域では1.5 ~ 1.7 倍の範囲に収まっています》《いずれにせよ,このことは初期値を想定する以外に波及効果分析にはそれほど創意工夫が入り込む余地がないことを示しているともいえます》。《なお,全国に比べ地域での波及効果が小さいのは,地域内で生産されている製品の原材料の多くが地域外から調達されており,波及効果が地域外に漏出してしまうことによります》。

このサイトには事例(新聞情報などによる)としてシルバービジネス市場(全国)では、「直接効果」(初期値)が14.9兆円、「経済波及効果計」が36.4兆円で2.4倍、高知よさこい祭り(地域)ではそれぞれ42億円と71億円で1.7倍、という数字が出ていた。このほかの12の事例も、きれいに「2.2 ~ 2.6倍」(全国)と「1.5 ~ 1.7 倍」(地域)の範囲内に収まっている。

なぁんだ。この倍率さえ知っていれば、単純売上げに掛け算するだけで、誰でももっともらしい「経済波及効果」が計算できるのだ。まさに「言ったもん勝ち」だ。

「ならやま雀」は《数字を鵜呑みにせず、こうした見方もあるという参考程度に受け止めておく方が良い》《どの分野への経済波及効果を高めるべきか、それには何が適しているかという比較検討の判断材料の一つとして利用していくべきであろう》と締めくくっている。つまり算出のプロセスや、各地域の特性を見極めることの方が大切なのだ。

こういうカラクリは、なかなかうかがい知ることができない。調査担当者自らがこういう話を書くには勇気が要っただろうが、それを認めて掲載するところが同センターの度量の広さというものだろう。今回の話は、漠然と信じていた数字が、いかに根拠薄弱なものかを気づかされる、目からウロコの情報だった。

※写真は、奈良市東向商店街・辯才天祭りの人気イベント「ギャルみこし」(05.7.9撮影)。残念ながら今は、「子供みこし」だけが行われている。
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