tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

奈良の「感動の瞬間」との出合いを(by JTB) 観光地奈良の勝ち残り戦略(72)

2013年06月28日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
6月25日(火)に開催された「第1回 奈良の活性化に向けた魅力ある観光地域づくりセミナー」(主催=JTB)の続きを紹介する。このセミナーは
※トップ写真は、野迫川村の雲海。ホテルのせ川のホームページより

第1部 観光地域づくりセミナー
 1.魅力ある観光地域づくりに向けて

 株式会社JTB西日本奈良支店 支店長 森真也 氏
 2.地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくり
 株式会社JTB旅行事業本部 観光戦略室 観光立国推進担当マネージャー 山下真輝 氏
第2部 観光地域づくりワークショップ( 山下真輝氏のコーディネートによる)
第3部 意見交換会・懇親会

というもので、6/26にはⅡ.地域の活性化に向けた魅力ある観光地域づくりについて、詳しく紹介した。今日は森支店長の「Ⅰ.魅力ある観光地域づくりに向けて」の番である。いただいた資料には8ページ分のPowwer Point資料がついていたので「30分ほどお話いただけるのかな」と思っていたら、なんと、お話はわずか10分だった。しかし内容の濃いお話だったので、資料に沿って以下に詳しく紹介する。なお太字は私がつけた。

1.奈良の観光における課題として思うこと
(1)歴史・神社仏閣・世界遺産等様々な観光素材が豊富に存在する一方で(特別拝観・展示等の取組等により価値を提供しているが)、単なる「モノの羅列」に終わっており、十分に活用できていない。

(2)歴史や伝統を守りありのままを楽しむことも重要であるが、お客様目線で考えた場合、可能なものは工夫・加工することも必要である。

(3)「日本人のお客様が楽しむ観点」「外国人のお客様が楽しむ観点」「地元のお客様が楽しむ観点」で整理した上で、奈良を訪れるお客様だけではなく地元のお客様にも、奈良の観光地に行ってみたい、と思っていただく必要がある。

(4)旅行において重要な要素である「食」について、大和牛・ヤマトポーク・大和肉鶏・大和野菜等豊富に存在する一方で、その美味しさ・良さがお客様に十分伝わっていない。

(5)行政・民間を含めて多数の方が奈良への強い愛着を持って観光振興に様々な形で取り組んでおられるが、その情報が点在しており、お客様や旅行会社に十分伝わっていない。

(6)様々な企画の決定時期と旅行会社の商品造成時期とが合っていないことがあり、商品に反映される企画が限られている。他にもあると思いますが…

2.解決策(こんなことをしたらという仮説)
(1)心の豊かさに繋がる奈良に行く意味・価値(他との違い)を作る
・奈良に行けば心が静まると思っていただく
奈良県の「祈りの回廊」は奈良をイメージできる素晴らしいネーミング。単なる特別拝観に終わってはもったいない。心を落ち着かせる法話や風景などを整理して、悩んだ時、疲れた時に奈良に行こうと思っていただけるイメージを作る。奈良の木材を使って、ホッとできる空間を作ることも関連付けができる。

・リタイア後は奈良に住みたいと思っていただく
奈良県は健康長寿日本一を目指している。奈良に行けば心が静まるイメージ、福祉医療の整備、大規模災害の少なさをアピールして、リタイア後は「国のはじまり 奈良」に原点回帰して住もう、と思っていただける流れを作る。

・旅行に行くことを不安に思っている方に、奈良なら行けると思っていただく
ユニパーサルツーリズムの観点から、バリアフリーの整備のみならず、大きな
投資をしなくてもできる範囲のおもてなしの体制を奈良の観光関係者や奈良市民に醸成する。結果、高齢で歩くことに不安を感じる方や病気が心配な方など、旅行に行くことを躊躇されている方の不安を解消し、奈良で元気になる流れを作る。

・奈良に行けばおいしいものが発見できる、と思っていただく
奈良の食材を使ったメニューを様々な料理人の方に考えていただき、それを集める。また、自宅でも作れるよう一部そのレシピを公開する。結果、飲食店の販売に留まらず、奈良県産の食材の売上拡大に繋がる。
              
・奈良に行って、平和を祈ろうと思っていただく
日本に2つしかない歴史的に有名な大仏は、奈良の大きなアピールポイント。大仏は天平時代に天変地異が相次ぐ不安定な世の中で世界平和を祈るために造られ、多くの方が参拝した。単なる見物ではなくその意味を伝え、大仏詣でを復活させる。

(2)豊富な素材をデザインして、奈良を楽しむ企画を作る
・夜景・星座鑑賞で夜の楽しみを作る
生駒の夜景、新日本三大夜景の若草山、星空がきれいな場所を選定するなど、奈良で宿泊するお客様が参加できるオプションを作る。函館山昼神温泉等のイメージ)



・朝の拝観で平和を祈る
奈良に来て心を休める、平和を願うことを念頭に朝の拝観が可能なところを整理する。

・朝のエクササイズで健康を作る
早朝奈良公園に行けばインストラクターがいて、皆でエクササイズができる環境を整備する。結果、健康を作る。その後の朝食がおいしくなる(中国の太極拳のイメージで、地元の方も参加できる)。

・商店街を楽しむため、わかりやすく目的別に整理する。
まずは、どこにどんなお店があるかがわかる情報を整理して、発信する。発展形として、昔からの場所で営業する観点から離れ、観光のお客様が楽しめるゾーン、地元のお客様が楽しめるゾーン、おいしいものが食ぺられるゾーン等に整理してモール化するようなことも検討する(高松丸亀商店街のイメージ)。

・奈良の「感動の瞬間(とき)100選」を作る
訪れる季節、天候、時間ごとに違う、行ってみたくなる奈良の風景を集め、その瞬間を見るために奈良に行こうと思っていただける素材を集める。皆がそれを理解し、また奈良に来ていただけるよう、お勧めができるようにする。地元の方がその素材を提供するとともに、コンテストで公募する。


奈良大和の祭り
野本暉房
東方出版

ここに出てきた「感動の瞬間100選」は、北海道における成功事例である。北海道感動の瞬間(とき)100選実行委員会のHPによると、

《「北海道 感動の瞬間(とき)100選」は、北海道の人々が日常の暮らしの中で何気なく見ている自然の景色や人々の情景の中から、「北海道ならでは」「その土地ならでは」のものや、「見られる確率は低いが見られたらとても感動する」「ある季節のある時期にだけ見ることができるいつもと違う景色」「日常の農業、漁業の中で特定の時期にしか見られない情景」など、旅行商品やガイドブックに紹介されにくいものもあえて発掘し、北海道に来ていただいたお客様に「感動」していただける「瞬間」を集めて紹介しようという考えのもと、北海道の旅館・ホテルやバス会社、観光施設、旅行会社など、観光関連事業に従事する人々が、身近にある「感動の瞬間」を持ち寄り、選定したものです》。

《選定されたものは、見られる確率がかなり低いものや、その年の気候や当日の天気に大きく左右されるものも多く、また、見られたときの感動の度合いも大きな感動から小さな感動まで様々な「感動の瞬間」がありますが、いずれも1回のチャンス、1日の訪問で「感動の瞬間」に出会えることは容易ではありません。最高の一瞬と出会うため、その土地に滞在し、じっくり時間をかけて楽しむ旅こそが北海道の旅のスタイルであり魅力であることを多くの皆様に体感していただけることを願うとともに、「北海道 感動の瞬間(とき)100選」がそのお役に立てれば幸いです》。

・ライブの聖地にする
昔は、社寺の境内で様々な芸能が開催され、人々がそれを楽しむ舞台になっていた。奈良の世界遺産でライブができる会場を整備し、アーチストが年和を願ってライブを行う聖地とし、ライブのメッカとして世界中から人を集める(世界遺産を舞台にできることと、世界平和を願うところがポイント)。

北海道 感動の瞬間(とき)100選の例
JTBが国内旅行活性化を目的に半年ごとに展開する国内デスティネーションキャンペーン「日本の旬」。2013年度上期(4月1日~9月30日)は「北海道」を対象地域として、旅行商品や情報発信を通じて、北海道の旅ならではの“感動”を伝える。

奈良では、奈良でしか味わえないコトが多いため、『感動の瞬間』シリーズは大いに参考。特別拝観、特別法話、貴重な文化遺産・空間を体感するなど、奈良ならではの『特別感』『歴史の目撃』などをシリーズにまとめるなど。



私が撮った「感動の瞬間」(東大寺二月堂・裏参道)。08.2.10撮影

(3)奈良観光に関わる人財・情報・資金を一元的に集約し、効果的に活用する
・奈良観光プラットフォームを作る
プラットフォームを作り、奈良県、奈良市、行政、民間等の垣根を撤廃して、奈良の観光に関わる人財・情報・資金を一元管理するとともに、集中的に有効活用する。

・奈良の観光に関わる情報を目的別に整理する
奈良に来た方が見る直近の情報、奈良に行く計画を作るための少し先の情報、旅行会社が商品化するための半年以上先の情報、にまとめて整理する。

・情報発信を一元化する
奈良観光に関するホームページを一元化して、そこを見れば観光のお客様も、旅行会社の商品造成担当者も、すぺての情報が得られるようにする。

・情報と利用者をマッチングさせる
整理された情報を、必要とされるところにマッチングさせるぺく営業を行う。


土門拳 古寺巡礼
土門拳
小学館

森支店長の話のなかで「感動の瞬間」には、いたく感心した。奈良県下で著名な「感動の瞬間」といえば、土門拳の「雪の室生寺五重塔」である。『土門拳 生涯とその時代』(法政大学出版局)によると、

土門は雪の室生寺を知らず、蝉時雨の降るような青葉の室生寺が、一番好きだった。室生寺ぐらい山気がジーンと肌に迫るところはなかったのである。雪が降ったと電報をもらい、大急ぎで東京から出かけるが、着いた時には溶けてしまっていたということが、何度もあった。

『女人高野室生寺』をまとめるにあたって、雪の室生寺をどうしても撮って入れたかった。原稿の締切を延ばし延ばしにした挙句、これが最後の機会と考え、撮影行を計画した。版元の美術出版社ではこの雪の部分のページをあけて刊行を待っていた。毎日のように橋本屋の女将に電話を入れるのが日課となっていた。

橋本屋は一年中予約で一杯、何日もねばるわけにはいかなかった。それで、弟子の北沢勉に頼み、1978(昭和53)年2月中旬、弟子の毛利と長男樹生とともに、奈良県御所市の病院に入院、療養しながら雪を待つことになった。例年にない暖冬で、天気予報は「晴れ」が続いた。室生の谷は雪の気配はなかった。寒さがぶりかえすと考えていた東大寺のお水取りが終われば、あきらめて帰ろうと考えていたのである。

寒波接近の予報に、3月10日、土門たちは橋本屋に移り、雪を待った。雪を撮影する時は、牧は東京にいた。土門からしょっちゅう電話が入り、3月10日橋本屋にきた。11日、今日帰ると決めていたが、もう1日のばすことにした。その日は雪が降るというお水取りの日(tetsuda注:東大寺二月堂修二会において、若狭井から水を汲む日)だったからである。

12日、お水取りの日の朝、初代が玄関のカーテンをあけると、一面の雪景
色だった。従業員も土門が雪を待っていたことを知っており、皆泣いた。初代は早く知らせねばと寝間着のまま二階の土門の部屋にかけ込んだ。「先生雪が降りましたよ」というと、土門は降りましたかと起き上がり、助手に窓をあけさせ、初代の手を握ってぽろぽろと涙を流した。土門が見たまだ薄暗い空間には、横なぐりに雪が降っており、「ぼくの待っていた雪はさーっと一掃け掃いたような春の雪であった」(土門『女人高野室生寺』「あとがき」)。

自分で身づくろいができず、毛利が着せるのだが、準備に時間がかかった。初代は見ていてもどかしかった。玄関から送り出す時、土門はにこにこして、雪に挑んでいく気迫が伝わってきたという。「予定していた撮影場所で約10カット。土門さんの指示で毛利さんらがセットしたカメラのシャッターを40回ほど切りおえたときは、すでに昼近く、あわ雪はいつしか消えかかっていた」
(「『カメラの鬼』に涙」『朝日新聞』大阪版、1978年3月14日)。


入江泰吉のすべて―大和路と魅惑の仏像 (別冊太陽)
入江泰吉
平凡社

このような「奈良の感動の瞬間」は、ほかにもたくさんある。自然のものだと、大神神社の「ササユリ」、奈良公園の「モリアオガエルの産卵」、野迫川村の「雲海」、宇陀市の「かぎろひ」…。伝統行事だと、吉祥草寺(御所市)の「茅原のトンド」、念仏寺(五條市)の「鬼走り」、お水取りの「走りの行法」「達陀(だったん)」、金峯山寺の「蛙とび」など…。

それにしてもさすが奈良支店長、奈良観光の課題とその解決策がきれいに整理され、まとめられている。「奈良の感動の瞬間」以外の提言の部分から、ベスト5を厳選すると

・悩んだ時、疲れた時に奈良に行こうと思っていただけるイメージを作る
・リタイア後は奈良に住みたいと思っていただく
・旅行に行くことを不安に思っている方に、奈良なら行けると思っていただく
・奈良に行けばおいしいものが発見できる、と思っていただく
・奈良観光に関わる人財・情報・資金を一元的に集約し、効果的に活用する

ということになろうか。森支店長、そしてJTBさん、示唆に富むお話を有難うございました!
コメント (3)
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