透明タペストリー

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「中央本線、全線開通!」

2021-11-11 | A 読書日記

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 『中央本線、全線開通!』中村建治(交通新聞社新書2019年)を読んだ。

新宿~立川間の「甲武鉄道」の開通が1889年(明治22年)。東京~名古屋間、中央本線全線開通はそれから22年後の1991年(明治44年)。本書のサブタイトルに「誘致攻防・難関工事で拓いた、東京~名古屋間」とあるように中央本線が全線開通するまでには様々なドラマがあったということを本書で知った。目次からもその様が伺える。

第1章 中央道敷設は中止して東海道へ ルート未定のままで中央線計画
第2章 中央線の産声は私鉄の甲武鉄道 国有後に延伸し東京駅が起点へ
第3章 起点は八王子と御殿場で競う わが国最長の笹子隧道を掘削
第4章 政治・現金・人脈などを総動員 木曽VS伊那間の誘致闘争に決着
第5章 隧道掘る直通案を迂回線に変更 辰野駅は設置場所や駅名で波乱
第6章 木曽川に日本最長橋梁を架橋 名古屋乗り入れ路線でも波乱
第7章 宮ノ越~木曽福島間で全通 名古屋で盛大に開通祝賀会

「プロジェクトX」でこのドラマを描くとしたら一体何回シリーズになるだろう・・・。

第4章に書かれているような木曽ルートと伊那ルートを巡る両地域の誘致「闘争」のことは全く知らなかったから興味深く読んだ。両地域の人たちが良くも悪くもとにかく一所懸命取り組んだことが分かった。

巻末の参考文献等のリストには中央本線沿線の市町村史誌をはじめ、さまざまな文献が細かな活字で6頁に亘りびっしり並んでいる。それらを丹念に調べて書かれた(*2)ということを考えると、本書は大変な労作だと思う。

巻末には中央本線年表や中央本線の歴史を示す路線図、開業時の時刻表が載っている。飯田町(*1)21:00発、名古屋着17:36着。ほぼ一昼夜の20余時間かけて運行していたことが分かる。

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本文の最後に[完]の文字がある。長編小説では見ることがあるが、新書で見るのは初めて。やっと書き終えたという著者の感慨がこの文字に込められているように思う。


*1 飯田町駅:現在の飯田橋駅と水道橋駅の間にあった駅
*2 帯の写真は中央本線全線開業時と同型の機関車を撮ったもので木曽町教育委員会提供とある。このことだけからも綿密な調査ぶりが窺える。