透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

撤去された火の見櫓の半鐘が保管されていた

2022-09-04 | A 火の見櫓っておもしろい

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松本市寿小赤 撮影日2012.07.27 控え柱付き火の見梯子


 しばらく前に濱 猪久馬という鋳物師の名前を知り、改めてこの半鐘の写真を見て、縦帯に濱 猪久馬と刻字されていることに気が付いた。だが、上の写真では名前以外の文字が判然としなかった。

画像データを拡大してみた。名前の上に二列ある小さい文字の右は大正四年と読めたが、左は判読できなかった。名前の右横の文字は上から松本市まで読めたがその下の三文字は読めなかった。ならば、現地で確認しようと7月26日に出かけたが、既に火の見櫓は撤去されてしまっていた(*1)。

このことについて**残念としか言いようがない。火の見櫓はともかく、「半鐘は文化財」という認識があれば、どこかに保管されているかもしれないが、どうだろう・・・。**と書いていた(過去ログ)。

*****

最近になってこの半鐘が松本市寿の地元町会のある方のご自宅に保管されていることが分かり、今日(4日)お邪魔させていただいた。判然としなかった文字を確認することができた。


半鐘の寸法:高さ約57cm(竜頭まで) 直径約30cm




全ての文字が読める。大正四年の左は「卯仲秋」。名前の右横、松本市の下は飯田町。

これで鋳物師・濱猪久馬が鋳造した半鐘が3個見つかったことになる。


竜頭の詳細 この部分をフックに掛けて吊り下げている。


乳と呼ばれる突起の詳細 半鐘の表面は4本の縦帯によって4つに分割された乳の間にそれぞれ乳が8個ある。鋳物師によって乳の配列も形も違う。

感心を持って物を見れば、深い世界があることが分かってくる。機会があれば、鐘を鋳造するところを見てみたい。


*1 半鐘を保管されている方に伺った。2017年(平成29年)の秋、とのことだった。


「椎本」

2022-09-04 | G 源氏物語

「椎本 八の宮の死、薫中将の思い」

 いよいよ薫と匂宮の恋物語が動き出す・・・。

八の宮の姫君たちに興味を抱く匂宮(兵部卿宮 ひょうぶきょうのみや)は二月、初瀬の長谷寺参詣の帰りに夕霧が光君から受け継いだ宇治の別荘に宿泊する。同行のお供たちはそれぞれ好きなように遊んで一日過ごす。夕方になって奏していた琴や笛などの音色が風にのって八の宮の邸にも届く。昔の栄華を思い出す八の宮は娘たちの行く末を案じている・・・。**「宰相中将(薫)は、どうせなら姫君たちの婿にしたいようなお人柄だが、ご本人はそんなことは考えていらっしゃらないようだ。まして最近の軽薄な男たちとの結婚など話にもならないし・・・」**(112,3頁)と八の宮。

翌朝、八の宮から薫宛ての手紙が届いた。返事を書いたのは薫ではなく、匂宮。この辺り、この先の恋愛のこじれの暗示か。返事を届けるのは薫。薫に同行した人たちは八の宮邸の趣のある設えに惹かれ、古風で上品なもてなしに感動していた。そこへ一向に同行していなかった匂宮から姫君に宛てた手紙が届いた。

手紙に困惑していた姫君たち、年老いた女房たちに返事をお待たせするのは感じがわるいものですよと言われて、八の宮は中の君に返事を書かせた。**かざし折る花のたよりに山がつの垣根を過ぎぬ春の旅人(挿頭の花を手折るついでに、山賤(やまがつ)の垣根をただ通り過ぎただけでしょう、春の旅人であるあなたは)**(115頁)長女ではなく、次女に返事を書かせたこともこの先の展開に関係してくるのだろうか・・・。

その後も匂宮は姫君たちに手紙を送っている。八の宮が返事を書くように勧められて、中の君が書く。大君(お姉さん)は書かないのかなと思っていると、**大君は、こうしたやりとりには冗談でもかかわろうとしない慎重な人である。**(116頁)と、あった。

秋、久しぶりに宇治を訪ねた薫に八の宮は**「私が亡きあとは、何かのついでにこの姫君たちをお訪ねくださって、どうか見捨てられない者とお考えください」などと胸の内を話す。**(117頁)

深まる秋。死期を感じた八の宮は**「(前略)よくよく頼りになる人が現れない限り、うまい言葉に誘われてこの山里を離れてはいけませんよ。(後略)」と姫君たちに言い聞かせる。八の宮が二人の娘に長々と話すことばには説得力があって、確かにと思うが、その話全ての掲載は控える。その後、八の宮は念仏三昧にこもっていた山寺で亡くなってしまう。

看取れなかった二人は悲しみに暮れ、八の宮の死を耳にした薫もひどく気落ちし、残念にも思って泣いた。登場人物たちは本当によく泣く。匂宮からもたびたびの弔問がある。

八の宮の喪が明けた。**「(前略)父宮おひとりのご庇護に守られていたからこそ何事も安心して過ごしてきたけれど、心ならずもこうして生き長らえて、思いも寄らない間違いが少しでもあれば、そればかり心配なさっていた亡き父宮の御霊にまで瑕をつけてしまうことになるのでは」**(128頁)と大君はあいかわらず匂宮の手紙に返事を書かない。注など不要だが、思いも寄らない間違いとは男女の間違いのこと。ただ、薫とは手紙のやりとりをしている。男二人の印象が違うのだ。

年末に宇治を訪れた薫は匂宮の思いを大君に取り次ぎ、自分の思いもほのめかす。だが、大君は取り合わなかった。夕霧は匂宮に娘(六の君)を添わせたいと願っているが、匂宮にはその気がない。宇治の姫君にぞっこんなので。

この帖にラスト、夏。**風が簾を高く吹き上げたらしく、「丸見えになってしまう。その御几帳をこちらに押し出して」という人がいるらしい。馬鹿なことを、と思いつつもうれしくて、中納言はのぞいてみる。**(142頁) そう、八の宮を偲び、宇治を訪れた薫は美しい姉妹をのぞきみてしまった・・・。

この帖は現代の恋愛ドラマに仕立ててもおもしろいかもしれない・・・。


1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木 
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔 
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋