透明タペストリー

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夕顔 「源氏物語」の女性を振り返る 

2022-09-27 | G 源氏物語

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 「源氏物語」を振り返るということは、登場する女性たちを振り返るということ。そのために『源氏物語の女君たち』瀬戸内寂聴(NHK出版2008年)を再読した。これは源氏物語に登場する女性たちの紹介・解説本で、1997年にNHKのEテレの「人間大学」で全12回放送された「源氏物語の女性たち」のテキストを書籍化したもの。ちなみにこの『源氏物語の女君たち』が出版されたのは源氏物語千年紀とされる2008年。「源氏物語」を読み始める前、4月に読んだが『源氏物語』を読み終えて改めて読んでみた。

この長大な物語に登場し、主人公・光源氏と恋愛する何人もの女性たちの振る舞いなどから、彼女たちの個性を明らかにする論考。カバー折り返しの本書紹介文に挙げられている女性は「紫の上」「夕顔」「朧月夜」「浮舟」。確かにこの4人はそれぞれタイプも違い、恋愛模様も各様で印象に残る女性たちだ。


『金子みすゞ童謡集 わたしと小鳥とすずと』

「夕顔」という名前でぼくが想い出すのは金子みすゞの同名の、そう「夕顔」という詩。
**お空の星が 夕顔に、さびしかないの、と ききました。
おちちいろの 夕顔は、 さびしかないわ、と いいました。
お空の星は それっきり、すましてキラキラ ひかります。
さびしくなった 夕顔は、だんだん下を むきました。**(99頁)

手元にある『金子みすゞ童謡集 わたしと小鳥とすずと』著者 金子みすゞ 選者 矢崎節夫(*1)(JULA出版局2003年75刷)より

この詩の夕顔と源氏物語の夕顔が似ているとぼくは思う。詩の夕顔は本当はさみしいのに、星の問いかけに「さみしくないわ」と強がる。

源氏物語の夕顔。光源氏は顔を覆い隠して夕顔に会い続けていたが、深い仲になっても隠し続けるのも不自然だなと思って、ある日覆いをとって顔を見せる。**夕露に紐とく花は玉鉾のたよりに見えしえにこそありけれ(夕べの露に花開くように、こうして紐をといて顔を見せるのも、通りすがりの道で会った縁ゆえですね)**(上巻111頁)と詠う源氏に**光ありと見し夕顔のうは露はたそがれどきのそらめなりけり(光り輝いていると思った夕顔の花の露は、夕方の見間違いでございました)**(同頁)と夕顔は返す。

どう、イケメンでしょと自信たっぷりに顔を見せた光源氏に夕顔は「すてきに見えたのは黄昏時で顔がよく見えなかったからかしら、間近で見るとたいしたことないわね」と返す。これは夕顔の強がりだとぼくは思う。で、詩の夕顔に通ずると思うという訳。

六条御息所の物の怪(嫉妬)で光源氏と密会中に突然亡くなってしまった夕顔は、「さびしくなった 夕顔は、だんだん下を むきました。」という詩の最後のフレーズと重なるようだ。

「源氏物語」の女性で昔から知っていたのは夕顔だけだった。やはり印象に残る女性だ。

瀬戸内寂聴は本の中で**現代の男性に、『源氏物語』の中ではどの女が好きですかと訊きますと、十中八九は、言下に「夕顔」と答えます。**(76頁)と書いている。そうなのか、そうかもしれないなぁ。金子みすゞの詩では「夕顔」が好きなぼくもそうかもしれない・・・。


*1 矢崎節夫さん(童謡詩人・金子みすゞ記念館館長)の講演会が10月2日に塩尻市広丘の「えんてらす」で開催される。参加申し込みをした。