■ 『「美味しい」とは何か 食からひもとく美学入門』源河 亨(中公新書2022年)を読んだ。
味に関する哲学的とも言える論考。「美味しい」ということについて注意深く、周到に論考を進めている。あることを説明をすると、それに対する反論を想定し、その反論に対する説明もその都度している。
先日『視覚化する味覚』久野 愛(岩波新書2021年)を読んだが、その時は書名からしてよく分からなかった。だが、この関連本を読んで納得した。
「第1章 五感で味わう」には次のような実験が紹介されている。味に影響のない着色料で赤くされた白ワインをボルドー大学醸造科の学生(ワインの味に詳しい)54人に飲んでもらい、味や香りを評価してもらったところ赤ワインによく使われる言葉で表現されたという。そう、**食べ物の色や形、つまり見た目も味に影響する。**(32頁)のだ。
数種類の銘柄のビールを試飲しておき(味を覚えておいて)、目隠しをして味覚だけを頼りに銘柄を当てるというゲームを家族でしたことがあるけれど、外した。試飲した時ははっきり味の違いが分かったのに・・・。味覚だけでは味は分からない、このことは人気テレビ番組「芸能人格付けチェック」もよく示している。
本書ではラーメンを例に食べ物のおいしさの評価には主観的な側面だけでなく、客観的な側面もあるということについての論考もされている。火の見櫓の美しさを考える上でも参考になる。料理は芸術かどうか、このことについての周到な論考も論理的にものを考えるための参考になると思う。
なかなか興味深く、おもしろい本だった。