「浮舟 女君の苦悩と決意」
■ 匂宮は月日が経っても浮舟のことが忘れられない。中の宮は**「(前略)私の不注意で何かまずい事態になるのは避けよう」**(391頁)と匂宮に浮舟のことを何も言わずにいた(ここで復習、浮舟は中の宮の異母妹)。だが、匂宮は正月に宇治から中の宮に届いた手紙を読んだことをきっかけに、薫が浮舟を宇治に隠し据えていることを知ってしまう。
ひそかに宇治を訪れた匂宮は薫を装い、暗い部屋の浮舟に迫る。浮舟は薫ではないことが分かったが、もう遅い。二人は一夜を明かし、その日も匂宮は口実をつくって宇治に泊まる。
悠長に構えている薫、情熱的に迫る匂宮。
匂宮に惹かれていく浮舟・・・。**本当に愛情深い人とはこのような人のことではないか、と思い知らされる気持ちである。**(406頁)
久しぶりに薫は宇治に浮舟を訪ねる。その時、浮舟は**「私がこんなふとどきな心を持っていたのだと、もし大将(筆者注、薫のこと)が漏れ聞くことでもあれば、どうしようもなくつらいことになるだろう。不思議なほど夢中で恋焦がれてくれる宮をいとしく思ってしまうのは、けっしてあってはならない、軽々しいあやまちなのだ」と、大将から嫌な女だと思われて、見捨てられたら、その心細さはどれほどだろうと深く身に染みてわかっているので、女君は深く思い悩んでいる。**(415頁)
薫も匂宮も浮舟に京に迎えると言っている・・・。浮舟恋の板挟み。
二月、雪降り。宮中で薫が浮舟を思って和歌をつぶやく。それを聞いた匂宮は嫉妬、大雪をついて宇治に向かう。今夜そちらに行くという知らせが宇治に届く。まさかこんな雪の中、と気を許していると夜更けに宮が到着する。**まさかいらしてくださるとは・・・と女君は胸打たれている。**(419頁)
匂宮は浮舟を連れて宇治川の対岸に用意させていた隠れ家に小舟で渡る。**橘の小島の色はかはらじをこの浮舟ぞゆくへ知られぬ**(420頁)と女君。**人目を気にする必要もないので、宮は女君と気兼ねなく睦み合って過ごす。**(421頁)匂宮と浮舟の甘美な陶酔の二日間。
その後のある日、匂宮と薫の使いが宇治で遭遇する。不審に思った使いが後をつけて・・・、薫は浮舟と匂宮の深い関係を知る。
尽きせぬ思いの丈を書き連ねた宮からの手紙に**とくべつ思慮深いわけでもない若い女心としては、こうした心の内に触れれば、宮への思いがますます強まりそうだけれど、最初に契りを交わした大将のほうが、さすがに奥深く、人柄も立派だと思ってしまうのは、女君にとって男女の仲を知ったはじめての相手だからでしょうか・・・。**(425頁)と紫式部。(角田光代さんの文章は漢字とひらがなとの使い分けが独特で、当然漢字と思うところをひらがな表記したりしている。)
匂宮と薫、タイプの異なる二人の男の間であれこれ思い悩む浮舟。長々とあらすじを書いても・・・。自分一人がこの世から消えれば、全て無難に納まる。三角関係を清算しようと浮舟は死を決意する・・・。二人の間でしたたかに生きるような女性ではない。冷徹な紫式部。
「浮舟」は印象に残る帖になると思う。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋