あれれ、山本夏彦著「『室内』40年」(文藝春秋・平成9年)をひらくと
東京都知事選という箇所がありました。
それははじめの方にありました。小見出しが『 地震は票にならない 』。
この本は、インタビューに夏彦氏が答えている一冊でした。
―― 清水(幾太郎)さんが近く大地震が来るぞと
説いているのをご存じだったんですね。
山本】 ああ聞いていた。けれども地震は票にならない。
秦野章が地震は票になると誤解して、
東京都知事選を美濃部亮吉と争った。
そして失敗した。地震の話はね聞きたくないんです。
いずれはあるに決まってるんだから。
当時は60年に1度あると信じられていた。・・・・ (p43)
―― 地震は票にならないっていうのはどういうことですか。
山本】 地震で壊滅するのはいつも本所深川です。
次もそうに決まっているから、そこへ行って選挙演説したんです。
ところが誰も聞いてくれない。
地震の話は聞きたくない、あれは天災だ、運だ、
猫の額みたいな、あんな『火よけ地』で助かるはずがないと
知っているから耳をかさない。
―― 今度の阪神大震災で関心が高まってます。
山本】 一年たったら忘れます。人間はそういう存在です。
・・・・・・・・・・・・・・ (p44)
建築雑誌に関する箇所も印象深い。
山本】 ・・・でもねえ建築家ならまた違った心がけがなければいけないな。
建築雑誌は地震をとりあげない。見ててごらん地震の特集をするか
しないか。
日建設計の林昌二さんに
『JIA』(新日本建築家協会が出す月刊の機関紙)
で扱いますかって聞いたら、扱わないでしょう、って言ってました。
なぜ扱わないかって聞いたら
専門家としてやろうとするからでしょうと答えた。
専門家ならいいかげんなことはできない、
データが揃うのを待っていたら何年かかるかわかりません。
揃う頃にはもう地震のことなんか忘れている。 (p45)
はい。この箇所は以前読んだのですが、すっかり忘れておりました。
それよりも、私が覚えていたのは、懐中電灯を取り上げた箇所です。
さりげないのですが、何だか印象に残り、懐中電灯を買いました。
最後にその箇所を引用しておわります。
山本】 ・・そんなことより私はいつも懐中電燈持ってる。
妻に死なれて一人になって『 雨が降る日はいやだなあ 』
って書いたことがある。
片手に傘、片手に鞄を持って両手がふさがっている。
夜家に帰ると暗くて勝手口の鍵があけられなくて、
だから懐中電燈を持ってるの、二つも。
ひとつは万年筆みたいなの、それからちゃんとしたのと。
手さぐりでつかめる。
もし地下道が真暗になったとき、
それがどのくらい人助けになるかわからない。
住友系の大手町不動産の元社長『室内室外』の執筆者
臼井武夫さんから教えられた。
―― 臼井さん、用意周到な方ですよ。
実は私も山本さんから聞いて持ってるんです。
山本】 自分より人助けだと思ってる。
まっくらになるとパニックが起こる。
だからあんなちっぽけな灯でも助かる。 (p44~45)