和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

新書で思い浮かぶのは。

2021-05-29 | 本棚並べ
本棚から取り出したのは、鷲尾賢也著の
「編集とはどのような仕事なのか」(トランスビュー・2004年)。

うん。けっこう線を引いているので、
熱心に読んだはずなのに、すっかり忘れておりました。

はい。熱しやすく冷めやすいタイプです。本の読み直し。
とりあえずは、パラパラと線をひいてある箇所を眺める。

ちなみに、著者は講談社の編集者でした。こんな箇所がある

「戦前の講談社の少年社員も書道、手紙、剣道を徹底的に仕込まれた
 (剣道があるところがいかにも講談社らしい)。」(p95)

著者鷲尾賢也(わしおけんや)氏は、1944年、東京の下町に生まれる。
とあります。1969年、講談社入社。
・・・講談社現代新書の編集長、PR誌『本』編集長などを歴任。
・・・別に、小高賢の名で歌人としても活躍・・・

内容豊富な一冊で紹介しようと思えば、支離滅裂となりそうです。
ここでは、講談社現代新書と京都。

「当時現代新書は、岩波新書、中公新書に大きく遅れをとっていた。
あまりにも売れないので、やめようという社内の意見も多かったそうである。
・・・・大衆向け出版の講談社というだけで、多くの先生方は
真剣に相手にしてくれなかった。週刊誌を発行している会社とは
つきあいたくないという顔を、露骨に見せる先生もいた。
アカデミズムとはこういうものかと、悔しかったことをよく覚えている。
人文研(京都大学人文科学研究所)など、いわゆる京都学派の方々に
積極的に執筆をお願いしたのは、そこには権威主義の匂いが少なかった
からであろう。・・・」(p22)

うん。本の最後の方にも京都が出てきておりました。

「新書の世界で講談社が、岩波、中公の後塵を拝していたことは
すでに述べた。東京より京都の方が差別される度合いが少なかったのだろう、
当時の編集長は企画のターゲットを京都の著者に絞っていた。
桑原武夫、今西錦司、梅棹忠夫、林屋辰三郎、奈良本辰也、貝塚茂樹
といった大物に接触を試みていた。そこから、その
弟子筋が紹介されるのが京都システムであった。」(p210)

「『季刊人類学』という雑誌を社会思想社からひきついで、
編集実務を講談社が引き受けていた。当然赤字であるが、
今西錦司、梅棹忠夫以下のいわゆる文化人類学関係の
著者獲得の一方法としてはじめたと聞いている。その結果、
岩田慶治、佐々木高明、米山俊直、谷泰、松原正毅といった
方々と長い間、おつきあいが生まれた。・・・・」(p211)

うん。引用ついでに、つづけます。

「銀閣寺の近くの岩田慶治さんのお宅に、
京都出張のときはよくうかがった。何冊か単行本を手がけたが、
猫の寝ている姿から寝釈迦にはなしが展開するなど、
岩田学は独特で、また読者も熱っぽかった。杉浦康平さんも
そのひとりで、岩田さんの学問と人柄をいつも絶賛されていた。

戦争中、特攻隊に志願するものは一歩前に出ろ、といわれたとき、
出るか出ないかというはなしが印象に残っている。・・・・
岩田さんは前に出てしまった。もちろん出撃する前に
戦争は終わってしまったのだが。

米山さん、谷さんのお二人が『季刊人類学』の実務の中心であった。
三カ月に一度、京都大学人文科学研究所の一室で・・・
論文の掲載や、コラムの担当などを決めるのだった。
 ・・・・・・
よくはなしに出るのは今西錦司先生のことだった。
一度きめたら梃子でも動かない。変えることのできるのは
天皇だけだなどと、弟子筋が笑いながら酒のさかなにしていた。

私は直接、今西さんを見た(?)のは二、三度しかない。
伊谷純一郎さんが英国のハクスリー賞を受賞したパーティーで、
進化論の敵国から賞をもらうとはけしからんと挨拶されて、
会場を沸かせたことを記憶している。」

「人文研時代の梅棹忠夫さんは知らない。
私は民博館長になってから以後のおつきあいである。
『館長対談』という本を何冊かつくっている途中、
視力を失くされる不幸に遭われた。
私が担当した『夜はまだ明けぬか』という体験記は、
そのときのことを書かれたものである。
以後何冊もエッセイ集を刊行した。ともかくパワフル。
視力を失くされてからの出版の方が多いというのであるから、
お目にかかるたびにこちらがタジタジとなってしまう。
三原喜久子さんという名だたる秘書の片に、
絡め手から頼みこむのが常であった。」(p213)

はい。編集者から見た京都という視点が、
赤字続きの雑誌編集をひきうけることと同時に鮮やかで、
ついつい他にも引用したいことがあるのに、残念ここまで。

あ、そうそう。わたしの講談社現代新書といえば、
板坂元著「考える技術・書く技術」
板坂元著「続考える技術・書く技術」
ついつい、新書で探すのが面倒なので、
身近な本棚に置いております。



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