映画「真夏の方程式」を劇場で見た。
東野圭吾原作、福山雅治が天才物理学者・湯川学を演じる人気シリーズ『探偵ガリレオ』の映画化だ。原作は未読
前作『容疑者Xの献身』は大ヒットだった。最近放映されたTVドラマ「ガリレオ」も20%前後の視聴率を獲得しているという。人気が継続しており、気になる作品だ。今一番輝いている福山雅治を見たい願望に駆られていった。物理学者の推理というだけでは、ドライな仕上げになるはずだが違う。日本人好みの人情物語に作り上げている。
最後にかけて、少し凡長と思える部分もあるし、ありえないと思われることもいくつかあったが楽しめた。
主人公湯川博士(福山雅治)は海底資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦へ来ていた。その集会では反対派が環境保全のために強く抵抗していた。
湯川は旅館「緑岩荘」に宿泊する。集会でかなり激しく反対派の論陣をきっていた地元の娘・川畑成実(杏)は父親・川畑重治(前田吟)、母親・川畑節子(風吹ジュン)が経営する旅館「緑岩荘」を手伝っていた。
玻璃ヶ浦へ向かう電車の中で湯川に出会った小学生の少年恭平(山光)もいた。両親の都合で一人、叔父が経営する旅館で過ごすことになっていたのだ。翌朝旅館がざわざわしている。同じ旅館に泊まっていた客の塚原がその夜中に姿を消し、海辺で変死体となって発見されたのだ。県警は堤防から誤って転落した事故死の線が濃厚であるとしていた。
所持品から被害者の塚原は元警視庁捜査一課所属の刑事であることがわかった。警視庁内では、彼に限って堤防から誤って転落なんてありえないという疑問が起きる。被害者と同じ旅館に湯川が泊まっていることを知り、なじみの捜査官岸谷美砂 (吉高由里子)が現地に派遣された。司法解剖の結果、塚原は一酸化炭素中毒で死んだ後、海に遺棄されたようだ。
すると塚原元刑事が16年前のある殺人事件を担当していたことがわかる。犯人仙波英俊 (白竜)は玻璃ヶ浦の出身だったという。何か絡んでいるのか?
映画を見始めてすぐ、いきなり鉄道上の歩道橋で1人の女性が刺し殺されるシーンが出てくる。
翌日の新聞記事にもなり、その女性と親しかった男の元から血染めの刃物が発見されて逮捕される。
すると、風吹ジュンが女性に向って何かを語っているシーンが映される。何なんだろう?
湯川が泊まっている旅館に、1人の初老の男性が泊まっている。
彼は元刑事だったといい、「16年前の事件について話が聞きたい」と風吹ジュンに言っている。
うろたえる風吹ジュンの姿が映し出される。16年前の事件の犯人が彼女なのか?とすぐさま思う。
そうしているうちにその刑事が殺されるではないか。この手の殺人事件の犯人は大女優が演じることが多い。いかにも彼女が怪しいと思わせるところから映画を展開させる。
執念の刑事といえば、松本清張「天城越え」で退職後の刑事が真犯人だった印刷屋の主人に昔の捜査資料の印刷を依頼するシーンが思い出される。
でもここではその刑事が殺されてしまうのだ。
転落の前に一酸化炭素中毒で既に死亡していたことが判明する。ならば、どこで死亡したのか?緑岩荘に泊まっている時に一酸化炭素中毒死したのか?それとも昔の犯人が自分の実家で殺してしまったのか?
謎が生まれる。それでも、謎解きだけで言えば、刑事殺しの全貌は割と早くわかる。開始して1時間たつかどうか?あと1時間以上ある。
その後どう話を進めるんだろうと思っているうちに、推理小説らしい過去の追跡による推理だけでなく、親子間の交情などウェットな話を織り交ぜる。
単なる推理を楽しむというだけの映画に仕上げていない。
いずれにせよ、主人公が物理学者としての一面を見せるところが最大の見せ所だ。食事のときに火に炙られた紙のお鍋が燃えないことを証明するくだりとか、ペットボトルロケットで少年と200メートル沖の海を見るシーンは実に楽しい。
特にロケットを飛ばして、海の底を見てみようとする実験の場面が印象深い。殺人事件で家の中が大騒ぎになっている中で、湯川がペットボトルや釣竿など材料を集め始める。少年が海を見たいこともあるけど、前日旅館の娘から海中が実に美しいということを聞いていたので見たくなったのであろう。何回も釣竿をつかってロケットを投げながら試行錯誤する。この角度では200メートルに届かないから角度を変えてもう一度とばかりに物理の実験ばりにトライする。これは見ていてワクワクする。
何が出来るのか?やっている最中は少年に教えない。どうなるのか推論してみろと言う。「自分で考え抜いた時のほうが、うまくいったときの喜びも大きい」と自分の頭で考える大切さを教える。なかなか教育的だ。
自分も湯川先生のように実験によって物事の道理を推測しようという気持ちは常に持っている。どちらかというとビジネスとしての実験かもしれない。
小学生の頃から理科に苦手意識がある。理科実験の時間は憂鬱だった。不器用で実験道具がうまく扱えない。数学は得意だが、理科はダメ。高校2年1学期期末試験にまじめにやろうと思った化学で0点とってからやる気がなくなった。したがって学校の選択肢も狭められた。今の会社の部門では、半分以上理系が占めるが、上司の自分は理科嫌い。
仕事的には物理学が多少関係あるし、技術屋に必要な資格も力学が必須だ。でもその知識がなくても仕事は出来る。もちろん仕事に関わる専門分野はディテイルまで理解するが、なぜそうなるのかまで探求しない。そんな自分でも、繰り返し実験する楽しみをこの映画でよみがえらせてくれた。
映像としては、映画公開時期を意識した夏らしいものとなっている。舞台となる海辺の町は美しいし、ヒロインである杏が海にもぐるシーンは涼しげだ。湯川博士が作るロケットで水中をのぞくなんて設定を、子供たちが映画で見たとすると一気に引き寄せられるであろう。
そのためか、本来あってもよさそうなエロティックな映像はない。事件についても、加害者に同情心を持たせる構成になっている。見ている自分も目がウルウルしそうなシーンもある。
それなので観客動員も幅広く図れるだろう。湯川博士はかなり突っ込んだところまで解明するのに、最後はウヤムヤに終わらせるところが日本人には受けるかもしれない。
福山雅治の存在感は凄い。
反対集会で大きく叫ばれる開発絶対反対に対して、湯川が「海中の調査を行うことは海を汚すことではない。調査の上で開発か環境保全かを決めるべきだ」
冷静沈着にいうセリフは重みがある。
歌も出来るし、俳優としても天下一品で実にすばらしい。まさに当代きっての千両役者だ。
東野圭吾原作、福山雅治が天才物理学者・湯川学を演じる人気シリーズ『探偵ガリレオ』の映画化だ。原作は未読
前作『容疑者Xの献身』は大ヒットだった。最近放映されたTVドラマ「ガリレオ」も20%前後の視聴率を獲得しているという。人気が継続しており、気になる作品だ。今一番輝いている福山雅治を見たい願望に駆られていった。物理学者の推理というだけでは、ドライな仕上げになるはずだが違う。日本人好みの人情物語に作り上げている。
最後にかけて、少し凡長と思える部分もあるし、ありえないと思われることもいくつかあったが楽しめた。
主人公湯川博士(福山雅治)は海底資源開発の説明会にアドバイザーとして出席するために玻璃ヶ浦へ来ていた。その集会では反対派が環境保全のために強く抵抗していた。
湯川は旅館「緑岩荘」に宿泊する。集会でかなり激しく反対派の論陣をきっていた地元の娘・川畑成実(杏)は父親・川畑重治(前田吟)、母親・川畑節子(風吹ジュン)が経営する旅館「緑岩荘」を手伝っていた。
玻璃ヶ浦へ向かう電車の中で湯川に出会った小学生の少年恭平(山光)もいた。両親の都合で一人、叔父が経営する旅館で過ごすことになっていたのだ。翌朝旅館がざわざわしている。同じ旅館に泊まっていた客の塚原がその夜中に姿を消し、海辺で変死体となって発見されたのだ。県警は堤防から誤って転落した事故死の線が濃厚であるとしていた。
所持品から被害者の塚原は元警視庁捜査一課所属の刑事であることがわかった。警視庁内では、彼に限って堤防から誤って転落なんてありえないという疑問が起きる。被害者と同じ旅館に湯川が泊まっていることを知り、なじみの捜査官岸谷美砂 (吉高由里子)が現地に派遣された。司法解剖の結果、塚原は一酸化炭素中毒で死んだ後、海に遺棄されたようだ。
すると塚原元刑事が16年前のある殺人事件を担当していたことがわかる。犯人仙波英俊 (白竜)は玻璃ヶ浦の出身だったという。何か絡んでいるのか?
映画を見始めてすぐ、いきなり鉄道上の歩道橋で1人の女性が刺し殺されるシーンが出てくる。
翌日の新聞記事にもなり、その女性と親しかった男の元から血染めの刃物が発見されて逮捕される。
すると、風吹ジュンが女性に向って何かを語っているシーンが映される。何なんだろう?
湯川が泊まっている旅館に、1人の初老の男性が泊まっている。
彼は元刑事だったといい、「16年前の事件について話が聞きたい」と風吹ジュンに言っている。
うろたえる風吹ジュンの姿が映し出される。16年前の事件の犯人が彼女なのか?とすぐさま思う。
そうしているうちにその刑事が殺されるではないか。この手の殺人事件の犯人は大女優が演じることが多い。いかにも彼女が怪しいと思わせるところから映画を展開させる。
執念の刑事といえば、松本清張「天城越え」で退職後の刑事が真犯人だった印刷屋の主人に昔の捜査資料の印刷を依頼するシーンが思い出される。
でもここではその刑事が殺されてしまうのだ。
転落の前に一酸化炭素中毒で既に死亡していたことが判明する。ならば、どこで死亡したのか?緑岩荘に泊まっている時に一酸化炭素中毒死したのか?それとも昔の犯人が自分の実家で殺してしまったのか?
謎が生まれる。それでも、謎解きだけで言えば、刑事殺しの全貌は割と早くわかる。開始して1時間たつかどうか?あと1時間以上ある。
その後どう話を進めるんだろうと思っているうちに、推理小説らしい過去の追跡による推理だけでなく、親子間の交情などウェットな話を織り交ぜる。
単なる推理を楽しむというだけの映画に仕上げていない。
いずれにせよ、主人公が物理学者としての一面を見せるところが最大の見せ所だ。食事のときに火に炙られた紙のお鍋が燃えないことを証明するくだりとか、ペットボトルロケットで少年と200メートル沖の海を見るシーンは実に楽しい。
特にロケットを飛ばして、海の底を見てみようとする実験の場面が印象深い。殺人事件で家の中が大騒ぎになっている中で、湯川がペットボトルや釣竿など材料を集め始める。少年が海を見たいこともあるけど、前日旅館の娘から海中が実に美しいということを聞いていたので見たくなったのであろう。何回も釣竿をつかってロケットを投げながら試行錯誤する。この角度では200メートルに届かないから角度を変えてもう一度とばかりに物理の実験ばりにトライする。これは見ていてワクワクする。
何が出来るのか?やっている最中は少年に教えない。どうなるのか推論してみろと言う。「自分で考え抜いた時のほうが、うまくいったときの喜びも大きい」と自分の頭で考える大切さを教える。なかなか教育的だ。
自分も湯川先生のように実験によって物事の道理を推測しようという気持ちは常に持っている。どちらかというとビジネスとしての実験かもしれない。
小学生の頃から理科に苦手意識がある。理科実験の時間は憂鬱だった。不器用で実験道具がうまく扱えない。数学は得意だが、理科はダメ。高校2年1学期期末試験にまじめにやろうと思った化学で0点とってからやる気がなくなった。したがって学校の選択肢も狭められた。今の会社の部門では、半分以上理系が占めるが、上司の自分は理科嫌い。
仕事的には物理学が多少関係あるし、技術屋に必要な資格も力学が必須だ。でもその知識がなくても仕事は出来る。もちろん仕事に関わる専門分野はディテイルまで理解するが、なぜそうなるのかまで探求しない。そんな自分でも、繰り返し実験する楽しみをこの映画でよみがえらせてくれた。
映像としては、映画公開時期を意識した夏らしいものとなっている。舞台となる海辺の町は美しいし、ヒロインである杏が海にもぐるシーンは涼しげだ。湯川博士が作るロケットで水中をのぞくなんて設定を、子供たちが映画で見たとすると一気に引き寄せられるであろう。
そのためか、本来あってもよさそうなエロティックな映像はない。事件についても、加害者に同情心を持たせる構成になっている。見ている自分も目がウルウルしそうなシーンもある。
それなので観客動員も幅広く図れるだろう。湯川博士はかなり突っ込んだところまで解明するのに、最後はウヤムヤに終わらせるところが日本人には受けるかもしれない。
福山雅治の存在感は凄い。
反対集会で大きく叫ばれる開発絶対反対に対して、湯川が「海中の調査を行うことは海を汚すことではない。調査の上で開発か環境保全かを決めるべきだ」
冷静沈着にいうセリフは重みがある。
歌も出来るし、俳優としても天下一品で実にすばらしい。まさに当代きっての千両役者だ。