【東京】鳩山由紀夫前首相は12日までに琉球新報などとのインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設交渉の全容を初めて語った。「県外移設」に具体的な見通しがなかったことを認めた。「県外」断念の理由とした在沖米海兵隊の「抑止力」については「辺野古しか残らなくなった時に理屈付けしなければならず、『抑止力』という言葉を使った。方便といわれれば方便だった」と述べ、「県内」回帰ありきの「後付け」の説明だったことを明らかにした。在沖海兵隊の「抑止力」の根拠の薄弱さを浮き彫りにした前首相の歴史的証言は、県民の反発と波紋を広げそうだ。
海兵隊の抑止力については「一朝有事のときに米国人を救出する役割だから、存在自体が直接、戦争の抑止、攻撃の抑止になるわけではない。全体として4軍そろっていることが必要で、全て連関している中での抑止力となる」と説明。・・・・
(「毎日新聞」より)
「あまりにひどい」「日米合意を見直すべきだ」―。鳩山由紀夫前首相が米軍普天間飛行場の移設先を名護市辺野古に決めた際、その理由に挙げた「海兵隊の抑止力」は後付けだったとの発言に、日米合意で移設先とされた名護市や、日々の騒音や墜落の不安にさらされる宜野湾市の関係者などからは、激しい怒りの声が上がった。
稲嶺進名護市長は「国のトップである首相の発言が、こんなに軽々しいものだったとは考えられない」と述べ、無責任な対応に憤りをあらわにした。
辺野古に戻そうという官僚の抵抗があったと、鳩山氏が明かしたことには「政治主導と言いながら結局、官僚の壁を越えられなかった。それが原因で、沖縄の混迷の状況が生まれている。非常に大きな責任がある」と指摘した。
鳩山氏が「公約を実現できず後悔している」と述べたことには「当時の状況を踏まえて、日米合意を菅首相に見直すよう伝え、民主党内でもあらためて、議論してほしい」と要望した。
キャンプ・シュワブ前で毎週ピースキャンドルを続け、移設反対を訴える渡具知武清さん(54)は「鳩山さんが県外移設に向けて具体的に動いたとは思えない。テーブルの上だけで議論したのだろう。結局、辺野古への逃げ道を残していたということだ」と怒りを抑えきれない。
宜野湾市の山内繁雄基地政策部長は「海兵隊が抑止力にならないことは、運用の実態をみれば分かることだ」と切り捨てた。「それなのに菅首相が辺野古移設を引き継いでいるのはおかしな話だ。沖縄に海兵隊は必要ない」と批判した。
「ひどいねえ、ばかにした話だ。あきれてしょうがないよ」。普天間基地爆音訴訟団幹事の栄野川安邦さん(77)は落胆した。「県民を愚弄(ぐろう)している。沖縄を政治の道具に利用しているようにみえる」と憤った。
我部政明琉球大学教授(国際政治)は「鳩山さんが辞めるよりも公約を守るために続けることが、政権交代後初の首相としての責任の取り方だった。辞めたことで、次の菅首相は沖縄の基地問題の責任を逃れたかのような形になった」と指摘。「(辺野古回帰を)官僚の責任にしているが、閣僚などの批判はしていない。首相としてのリーダーシップの自覚のなさが発言に表れている。米国と交渉する準備すらできていなかった」と指摘した。 (「沖縄タイムス」より)
この書は、上のような発言が飛び出す前に読んでいたもの。ここに掲載された評論の中で、海兵隊が「抑止力」とはなりえないことを沖縄の現実、東アジアの軍事的・政治的背景をふまえて説得力のある論証がなされていた。
沖縄の米軍基地、とりわけ世界の中で最も危険とされる普天間基地。そこにある海兵隊の任務とはどういうものか。けっして日本の安全を守るためのものではないこと、他の米軍の組織の中での存在価値(海兵隊無用論まで米軍にはあるほど)など、「学べば学ぶほど」普天間基地の機能を沖縄県内に移転(より充実化させて)という結論がいかにナンセンスであるか。
それが、為政者の、まして政権交代を実現した民主党政権の首相のリーダーシップであったはず。国民を、沖縄県民を愚弄したあげく、今になって方便として「抑止力」を用いるとは、軍事的・政治的無能さを自らさらけ出した。
それが一国会議員の口から出たならば「バカな男だ、不勉強だ」ですませることも出来ようが、当時の首相だった男の口から出て来るとは! 日本国内だけではなく、アメリカ、中国、韓国、ロシアなど緊張関係の東アジア情勢にピリピリしている関係諸国に、日本の首相の軽さ、ひいては民主党政権の危うさをより鮮明にしたことになった。
しかし、この書では、予想されたこうした発言がけっしてハトヤマ個人の資質というだけではなく、日本の為政者(自民党を含めてこれまでの)姿勢、それを支持する(沖縄の犠牲・負担を了解する国民の姿勢。それを意図的に?誘導するマスコミ。)そのものではないかと結果的に見事、言い当てる書となった。
ハトヤマを責めることも重要だが(特に野党、とりわけ自民党が鬼の首でも取ったようにはしゃぐのは見苦しい)、我々が、沖縄、とりわけ普天間基地の移転問題を本気で考え、解決策を見いだせなかったことをも責められなくてはならない。

参考文献「沖縄を聞く」(新城郁夫)みすず書房