ジャズ批評誌の連載コラム「ヴォーカルはいつも最高だ」が、単行本(駒草出版)として刊行されました。ジャズ批評2007年1月号から2014年5月号までの連載と、同誌特集記事を修正・加筆してまとめられたものです。
著者の武田清一さんは、1960年代後半から音楽活動を行い、「日暮し」を結成、5枚のアルバムを発表、「いにしえ」などのヒット曲があります。FM東京系列ミュージックバード「ターンテーブルの夜」のパーソナリティを務め、ジャズ批評誌などに執筆。東京都国立市にあるヴォーカル喫茶「Cafe Sings」の店主です。
(本の上にかかっている、半分ほどのカバーをとると、武田清一さんが、フランク・シナトラと同じポーズで出てきます。)
筆者のレコード収集への飽くなき情熱とヴォーカルへの愛情に心打たれました。取り上げるのは、1950年代~60年代を中心として活躍したジャズやポピュラー系のヴォーカリストです。歌手のことを知ることのできる参考書であり、また、レコードやCD収集のお伴にも役立ちます。
『心を救った桜色の10インチ』という副題で、ジョー・スタッフォードの「オータム・イン・ニューヨーク」の紹介からスタートしますが、これは筆者の無人島にもっていく一枚です。登場する歌手数は、多分106人(組)です。それぞれの歌手の経歴や特色、1枚~2枚のアルバムを紹介し、さらにその中の収録曲に触れた記述もあります。
(これは12インチの方のジャケット。以下掲載したジャケットは、私(azumino)の手持ちのものです。)
また、アナログ盤ということで、ジャケットへのこだわりがうかがわれます。美形ジャケットの登場も多く、表現するのに『大美人』という独自の言い方が出てくるのが面白い。例えば、『大美人は、いつだって人類の宝物だ』として、ジャニス・ハーパーの「ウィズ・フィーリング」を、『大美人には自ら命を絶つのを許したくない!』として、ビヴァリー・ケニーの「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」が挙げられています。
レコード収集時のエピソードも見逃がせません。例えば、ジョニ・ジェイムスの「リトル・ガール・ブルー」との出会いでは、アリゾナへ向かう途中のある町のレコード店で、真昼から閉店までレコードハンティングをしたところ、途中で、お店のご主人がハンバーガーとコーヒーを出してくれ、「君はクレイジーだけどレコードへの愛は感じる。またいつか来てくれ。いい旅を・・・」と話してくれたといった記述を読むと、武田さんは凄いなと思わざるを得ません。
男性の歌手も多く取り上げていて、マット・デニス、バディ・グレコ、ジョー・ウィリアムスらが出てくるのが嬉しい。その他、日系の歌手やコーラス・グループについても言及されています。
本のはじめのほうに、本書に登場するレコードのカラージャケット(筆者所有のもの)が134枚掲載されています。美麗ジャケットばかりで、見ているとオリジナル盤がほしくなってきますが、オリジナルはともかく、再発盤やCDでもいいので、ほしいものが結構ありました。
最近の歌手では、クレア・マーティンやイーデン・アトウッドなどが収録されています。ジョニー・ソマーズやキャロル・スローンといった録音の多い歌手が出てきませんが、今後の続編を期待しましょう。