(2)鉄輪(かなわ)
続く「鉄輪」は、同名の謡曲を基にした作品である。
「女が新しい妻を迎えた夫へ恨みをはらすために貴船神社に参ります。貴船神社では社人が女を待っていて、「頭に鉄輪を戴き、その三つの脚に火を灯せば、鬼となり恨みを果たせる」などと神託を告げます。一方、夫は夢見が悪いので陰陽師安倍晴明に祈祷を頼みます。やがて女が悪鬼となって現れ、夫の心変わりを責め、形代[かたしろ]の新妻の髪をつかみ打ちすえます。しかし悪鬼は清明が呼び出した神々に追われ退散していきました。」
要するに、三角関係で捨てられた女(徳子)が男(藤原兼家)に恨みを抱き、男と新妻(綾子)を呪うというストーリーなのだが、夢枕先生は、
・黒幕・蘆屋道満を登場させる。
・兼家の助っ人・源博雅を登場させ、彼が「笛」でピンチを救う。
という改変を行った。
この意味するところは明瞭で、構成は「大百足退治」と類似している。
見せ場は、晴明と道満との「呪法合戦」である。
綾子に徳子が乗り移り、血迷った兼家は綾子を斬り殺してしまう。
すると、頭に鉄輪を頂く徳子が現れ、兼家を「共に地獄に落ちよう」と誘う。
そこに晴明と博雅が現れ、博雅は兼家を救うため笛を吹こうとするが、音がならない。
すると、道満の声が不気味に響く。
道満(原animus)は徳子の体(corpus)に乗り移り、徳子を傀儡として博雅の「笛」(第2のanimus)を奪いとる。
そして、「これが徳子の望んだことだ」と高笑いする。
「笛」を無効化すれば、徳子は”鬼”(animusとcorpusの分離)の状態にとどめおかれるのである。
つまり、「笛」(=「第2のanimus」)は媒介的な機能を果たしているようだ。
その後、「笛」を巡る晴明グループと道満グループの戦いが繰り広げられ、晴明側が「笛」を取り戻すのである。
ここでも、「大百足退治」に出て来た分節(原animus---第2のanimus---corpus)がはっきりとあらわれている。
・・・以上のとおり、「鉄輪」には、ポトラッチらしきものは登場しなかったので、ポトラッチ・ポイントはゼロ。