明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



中国由来なのだろうか、浮世絵の平行遠近法、逆遠近法は、実際はあんな風になっていないのに、日本人は何故あんな描法を用いたのか。 かつて日本は口語体と文語体があった。つまり話し言葉と書き言葉は別であった。三遊亭円朝の落語をそのまま書き写した速記本が出版され、二葉亭四迷が小説について坪内逍遥に相談した際、円朝のように書いてみてはどうか、といわれ『浮雲』が生れ、言文一致小説の先駆けとなった。現在の感覚から見ると奇妙に思うのと同じようなものであろう。 当然、そんな遠近法は、写真でただ撮っても無理な訳で、パーツに分けて加工し、組み立て直す作業がいる。しかし被写体の成分は同じであるから、そこには無理が生じる。いやそもそも無理を承知でやるのだから構わないとして、立体を歪ませるわけであるから、立体感をかもし出す陰影の除去は、最低必要である。つげ義春作品へのオマージュ『ゲンセンカン主人』内の行灯、煙草盆でささやかに試みたが、おかげで実は二回も展示作品を差し替えるというドタバタを演じた。ある程度言葉はしゃべれたとしても、その言語で夢まで見るのは簡単なことではない。 ここいらで画面内、すべてをあの遠近法で描いていみたい。あの世(イメージ)とこの世の挟間で悩むことがないよう、物のみで。これは写真を用いて文語調で描こう、というようなものかもしれない。 少なくとも私は写真でそんな試みは知らないから、只今地球上でこんなことをしているのは私だけであろう、という妄想時にのみ溢れ出す快感物質は充分味わえるに違いない。その快感を得る最大のコツは、“要らないから無いのだ”という疑念には触れないことである。

※拝啓つげ義春様』
 11月5日(日)まで。『ゲンセンカン主人』展示
ビリケンギャラリー
 住所:〒107-0062 東京都港区南青山5-17-6-101
 TEL:03-3400-2214
 営業時間:12:00 ~19:00(月曜休)
 ホームページ:http://www.billiken-shokai.co.jp/

月刊ヘアモード12月号 no・693
不気味の谷へようこそ第9回 脳内イメージを表す人形写真

※『タウン誌深川』25日“明日できること今日はせず”連載5回「芭蕉の実像」

※深川江戸資料館にて九代目市川團十郎像を展示中。11月12日まで。

HP

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