明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

  


昨年、谷中全生庵で幽霊画公開のおり御一緒させていただいた円山応挙は(と書ける嬉しさ)虎など見たことがないので、虎の敷物を写生している。毛皮とはいえ、まだ本物を見ているだけマシで、その頃の日本では。これのどこが虎なんだ、という北斎の娘のお栄でさえ妙なオリジナル模様の虎を描いている。幸い現代人の私は、動物園で実物を見ている。幼い頃読んだキップリングの「ジャングルブック」に人間の眼を猛獣が怖がる場面(昔の読書体験ゆえ、詳細は不明)そこで上野動物園で、ライオンと虎ににらめっこを挑んだ私であった。しばらくすると確かに向こうが眼をそらせたように感じたが、頭の悪そうな人間のガキがこちらを睨んでいる、とほとんど相手にされていなかったであろう。それはともかく。象でも獏でも麒麟でもなんだって、見たことがなくても日本人は想像力を持って描いて来た。寺山修司はかつて“どんな鳥も想像力ほど高くは飛べないだろう”なんていって私を痺れさせた。 TVドラマで北斎が西洋画を見て「見たまま描いていやがる」、つまり、かつての日本人は西洋人のように見たまま世界を描くなんて下品?なことはしなかった。写実画家のクールベが、「私は天使など見たことがないので描かない」といったそうだが、ワイフ以外とはキスしない、とキスシーンを拒んだパット・ブーンくらい嫌いになった。 見たまま写ってしまう写真の身も蓋もなさにあらがい続けた私は寒山と拾得の前を、想像上の虎の上に豊干を乗せて登場させてみたくなる。

※2016年深川江戸資料館での朗読ライブ映像。
『人間椅子』
『白昼夢』
『屋根裏の散歩者』
ピアノ嶋津健一 朗読田中完

2016年『深川の人形作家 石塚公昭の世界』 youtubeより

『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載6回「夏目漱石の鼻」

HP

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )