『三島由紀夫小百科』が出て、三島由紀夫に対する昨年までの熱がつい蘇って来る。昨日も書いたが、三島にウケることだけを考えた、まさに二人だけの世界という感じであった。『椿説弓張月』の演出について寺山修司との対談で三島は「あんなに血糊を使うはずではなかった。」と現場のせいにしているが、映画『憂国』の撮影現場で「もっと血を!」とぶちまけさせたのは誰だ、と可笑しかった。嘘つきという意味では勝るとも劣らない寺山修司も鼻で笑っていただろう。憂国では切腹の際に溢れるはらわたに豚のモツを使った。スタジオ内に溢れる異臭。三島はそこに香水を振り撒いた。おそらく結果はさらにおぞましいことになったと思うが、そんなズレているところさえ、嫌いではない。 三島にウケようとするあまり二二六の将校をやってもらった時は流血させ過ぎてしまった。この時はどこでも血だらけにする方法を思い付いたのだが、都内各所を血の海にして、一カットで良いのだ、と我に返った。