2017年12月、Mark Twainの永遠の名作Adventures of Huckleberry Finn(英国版 1884, 米国版1885)が、名翻訳家の柴田元幸によって刊行された。『ハックルベリー・フィンの冒けん』という書名で。
口語体の語りの可能性を一気に押し広げたこの名作を、柴田元幸はどう訳したか? ぜひ『ハックルベリー・フィンの冒けん』でご確認いただきたい。時に原書とあわせて読むことで、大変な英語の勉強になるだろう。
原文はこのあたりで簡単に見られる。
https://www.gutenberg.org/files/76/76-h/76-h.htm
2017年最後と2018年の最初の日のGetUpEnglishでは、Adventures of Huckleberry Finnを理解する上で重要な、柴田氏も『ハックルベリー・フィンの冒けん』で解説している2つのkey wordについて考えてみた。
http://blog.goo.ne.jp/getupenglish/e/3cbb553b4073f7fa32a744e9edb6306e
http://blog.goo.ne.jp/getupenglish/e/0f6305e71e2ae054ec36137d13adc6e2
本日のGetUpEnglishでは、この小説の象徴というもいうべき語raftを考えてみよう。raftはもちろん「筏」であるが、ハックルベリー・フィンの自由の象徴であり、彼を汚れた文明世界から連れ去ってくるものだ。
渡辺利雄は『講義アメリカ文学史』第II巻の「マーク・トウェイン」に書いている。
http://books.kenkyusha.co.jp/book/978-4-327-47214-6.html
Huckleberry Finn の基本構造の一つは、アメリカ文学に多く現われる「自然」と「文明」の対立である。少年 Huck Finn はこの二つの世界を放浪しながら、つまり、偽善・暴力・抑圧的な文明社会から解放的で汚れのない自然に脱出し、さらにまた社会に戻るという往復運動を繰り返すことによって、人間社会の醜い現実に目覚め、よき自然の影響の下で人間的に成長する。彼の陸上での体験はほとんど暴力的な恐怖の体験といってよく、彼はアメリカ南西部の田舎町の ‘sivilized’ された人間に幻滅する。彼がその幻滅から立ち直り、一時の安らぎを見いだすのは、川に逃げ帰り、自然の孤独の中ですべてを忘れて過ごす時である。彼は生まれ変わる。再生を体験する。そうした雄大なミシシッピー川を20世紀最大詩人の一人T・S・エリオットは、物理的な存在としてでなく、超越的な存在たる「神」とみなしたのである。そして、この小説の意味と魅力はそこにあると結論づける。
このraftが出てくる場面でわたしがいちばん好きなのは、18章の最後の部分だ。シェファードスン家とグランジャフォード家のおそろしい血みどろの争いを見てきたハックは筏とジムに迎えられ、ようやく落ち着くことができる。
○Practical Example
I never felt easy till the raft was two mile below there and out in the middle of the Mississippi. Then we hung up our signal lantern, and judged that we was free and safe once more. I hadn’t had a bite to eat since yesterday, so Jim he got out some corn-dodgers and buttermilk, and pork and cabbage and greens—there ain’t nothing in the world so good when it’s cooked right—and whilst I eat my supper we talked and had a good time. I was powerful glad to get away from the feuds, and so was Jim to get away from the swamp. We said there warn’t no home like a raft, after all. Other places do seem so cramped up and smothery, but a raft don’t. You feel mighty free and easy and comfortable on a raft.
柴田元幸はこの部分をどう訳したか、『ハックルベリー・フィンの冒けん』でぜひ確認してほしい。
●Extra Point
語源が違うがraftは同じつづりで「多量、多数」の意味でも使われる。
◎Extra Example
When he went up the hill, Captain America was shocked to see a raft of enemy soldiers approaching.
「キャプテン・アメリカは山の頂上に登り、多数の敵兵が近づいてくるのを目の当たりにしてぎょっとした」
2017年12月、Mark Twainの永遠の名作Adventures of Huckleberry Finn(英国版 1884, 米国版1885)が、名翻訳家の柴田元幸によって刊行された。『ハックルベリー・フィンの冒けん』という書名で。
口語体の語りの可能性を一気に押し広げたこの名作を、柴田元幸はどう訳したか? ぜひ『ハックルベリー・フィンの冒けん』でご確認いただきたい。時に原書とあわせて読むことで、大変な英語の勉強になるだろう。
原文はこのあたりで簡単に見られる。
https://www.gutenberg.org/files/76/76-h/76-h.htm
2017年最後と2018年の最初の日のGetUpEnglishでは、Adventures of Huckleberry Finnを理解する上で重要な、柴田氏も『ハックルベリー・フィンの冒けん』で解説している2つのkey wordについて考えてみたい。
昨日のGetUpEnglishでは、lonesomeという語について考えてみた。
本日のGetUpEnglishでは、by and by(やがて、じきに、まもなく)という表現を考えてみよう。
柴田元幸は『ハックルベリー・フィンの冒けん』の「解説」で次のように述べている。
by and by やがて、そのうちに、の意。『ハックルベリー・フィンの冒けん』の二十世紀版とも言うべきJ・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』ではall of a sudden(突然)という言葉が頻繁に使われ、ミシシッピ川を下るハックが生きる悠然とした時間と、ニューヨークの夜の街をさまようホールデン・コールフィードが生きるせわしない時間の対比が明らかになる(もちろんハックやジムも、そのby and by 的時間の流れのなかにいつまでもとどまっていられはしないわけだが)。先行作品とのあいだに共通点と相違点の両方を持つことによって、『キャッチャー』は『ハック・フィン』に対する雄弁なコメントとなっている。
例えば、この作品の19章には次のフレーズが出てきて、by-and-byが二度使われている。
○Practical Example
… And afterwards we would watch the lonesomeness of the river, and kind of lazy along, and by-and-by lazy off to sleep. Wake up, by-and-by, and look to see what done it, and maybe see a steamboat coughing along up stream, so far off towards the other side you couldn’t tell nothing about her only whether she was stern-wheel or side-wheel; then for about an hour there wouldn’t be nothing to hear nor nothing to see—just solid lonesomeness. Next you’d see a raft sliding by, away off yonder, and maybe a galoot on it chopping, because they’re most always doing it on a raft; you’d see the ax flash, and come down—you don’t hear nothing; you see that ax go up again, and by the time it’s above the man’s head, then you hear the k’chunk! — it had took all that time to come over the water. So we would put in the day, lazying around, listening to the stillness. (Chapter 19)
この部分を柴田元幸はどう訳したか? 『ハックルベリー・フィンの冒けん』(研究社)でご確認いただきたい。
●Extra Point
by and byは日常的には次のように使われる。
◎Extra Example
"Wait a little longer. Tony Stark will be there by and by."
「もう少々お待ちください。トニー・スタークはもう少しすればそちらに着きますから」