菅首相の中国人船長釈放、「政治介入は一切ない」は事実か

2010-10-01 09:58:01 | Weblog

 菅首相が昨9月30日の衆院予算委員会で次のように答弁している。《首相 捜査への政治介入ない》NHK/10年9月30日 12時26分)

 中国漁船による衝突事件について――

 菅首相「中国側の反応は、違法操業などに対する国内法に基づく粛々たる手続きをある意味で認めない姿勢があり、たいへん問題だ。尖閣諸島は、わが国固有の領土であり、これからもきちんとした姿勢で臨んでいく」

 公務執行妨害罪で逮捕した中国人船長釈放に於ける政治介入の有無について――

 菅首相「検察当局が、事件の性質を総合的に考慮して粛々と判断した。検察がいろいろな状況を勘案することは法律で認められている。外務省から担当者を呼んで聞いた意見も勘案したかもしれないが、検察は、自主的に判断しており、適切だった。政治介入という言葉を捜査への介入があったかどうかという意味で言えば、それは一切ない」――

 「検察がいろいろな状況を勘案することは法律で認められている。外務省から担当者を呼んで聞いた意見も勘案したかもしれない」は中国人船長を処分保留のまま釈放することを公表した記者会見で那覇地方検察庁の鈴木亨次席検事が述べた発言を指す。

 《中国船船長の釈放決定 送還へ》NHK/10年9月24日 16時59分) 

 鈴木亨次席検事「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」

 いわばこれは法律で認められた検察独自の判断であり、菅内閣の指示を受けた政治判断ではないということを菅首相は言っている。

 だとしても、検察はいくら行政機関の一部であったとしても、地方検察庁に至るまで内閣に席を占める閣僚か、閣僚ではなくても、与野党の政治力ある有力国会議員が国政を担う政治家としての役目上常に留意している(と思うよ)内政から外交問題全般に亘る諸問題に関するそれぞれの政治的判断と同様の政治的判断を国民から負託を受けた身分ではないにも関わらず自らも行い、犯罪捜査と処分に関わる判断にその手の法律に則るだけではなく、必要に応じて自らが行った政治的判断を適用することをも役目の一つとしていることになる。

 言ってみれば、国民の負託を受けてはいない検察官は国民から負託を受けた政治家も兼ねていることになる。菅首相の「検察がいろいろな状況を勘案することは法律で認められている」の発言を那覇地方検察庁の鈴木次席検事の発言と併せて厳密に解釈すると、どうしてもそういうことになる。

 上記NHK記事は釈放理由に関わる鈴木亨次席検事の次の発言も伝えている。 

 鈴木亨次席検事「衝突された巡視船の損傷の程度が航行ができなくなるほどではなく、けが人も出ていない。船長は一船員であり、衝突に計画性が認められない」

 いわば悪質と認められる公務執行妨害事案ではないと判断したということである。

 那覇地方検察庁が中国人船長を処分保留のまま釈放すると記者会見を開いたのは9月24日。4日後の9月28日午前の参院外交防衛委員会で衝突の瞬間のビデオを見たという前原外相は鈴木亨次席検事とは逆のことを発言している。《前原外相「船長逮捕は当然」 再発の場合も逮捕の考え》asahi.com/2010年9月28日12時51分)

 前原外相「漁船が海保の巡視船に体当たりをし、(巡視船が)沈没したかもしれない悪質な事案であり、公務執行妨害での逮捕は当然だ」

 その「悪質」性について、海上保安庁が撮影した事件当時のビデオテープの映像に基づいて次のように発言している。

 前原外相「明白に中国漁船が舵を切って体当たりをしてきた。故意ではなくてミスで当たってきた場合は、当たる瞬間とか直前とか、当たった後でエンジンを逆回転させて(海上保安庁の巡視船から)離れる措置を取るはずだが、そういった形跡はまったくなかった。・・・・同様の事案が起きればまた日本の国内法に基づいて対応するのは当然だ」

 この発言は海上保安庁側からの説明をも含んだ内容となっているはずである。いわば海上保安庁も悪質だと見ていた。

 那覇地方検察庁と前原外相の判断に差異というよりも、矛盾がある。一方は悪質でないとし、一方は悪質だとしている。那覇地方検察庁は悪質ではないと見たから、処分保留のまま釈放したのだろう。それが国内法に則った措置であったとしても、検察が政府に属する行政機関の一部であるなら、政府の側で悪質と見た場合、その釈放に疑義を唱え、検察の説明を求める責任を有するはずであるし、判断を曲げさせることは政治的介入となるが、判断を質すことは政治的介入とはならないはずだが、前原外相は「悪質な事案」と言うのみで、何ら行動しない。
 
 前原外相が言っている「同様の事案が起きればまた日本の国内法に基づいて対応するのは当然だ」の「同様の事案」とは、今回と同様の悪質な事案ということであろう。「悪質な事案」だからと逮捕したとしても、今回と同様に処分保留のまま釈放が重なった場合、その悪質性も逮捕も意味を失う。

 いや、処分保留のままの釈放は既に事件の悪質性と逮捕の意味を失わせている。そのことを考慮しないままの前原外相の「同様の事案が起きれば」云々は単なる強がりとなる。強がりがふさわしい男かもしれない。強がりではないと言うなら、「検察が決定したことだから口出しはできないが、事件の悪質性から言って処分保留のままの釈放はおかしいではないか」の一言ぐらい言うべきだろう。

 だが、「検察が国内法にのっとって対処したということであり、決まったことについてとやかくいうことはない」(《【中国人船長釈放】前原外相「検察判断にとやかくいうことない」》MSN産経/2010.9.25 09:51)と、9月24日訪米先で自らが認識した事件の悪質性を自らいともあっさりと否定している。

 実際のところとして海上保安庁もそう見ている前原外相の「悪質な事案」という見方を正しいとするなら、釈放は「衝突された巡視船の損傷の程度が航行ができなくなるほどではなく、けが人も出ていない。船長は一船員であり、衝突に計画性が認められない」からとの理由からではなく、「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」ことが理由となる。

 前者の理由は検察庁として必要とされる、あるいは検察庁として示さなければならない体裁上の理由となる。いわば取ってつけたに過ぎないということであろう。

 後者であるなら、検察庁は菅首相が言うように「検察がいろいろな状況を勘案することは法律で認められている」ことからというよりも、国政を担う政治家の判断を検察庁自体が直接的に行ったことになる。

 果して政府からの要請なくして、検察にこのような判断が許されるのだろうか。

 昨9月30日の衆議院予算委員会で尖閣問題の集中審議が行われた。富田茂之議員(公明党)の質問とそれに答弁する鈴木久泰海上保安庁長官の応答をテレビでたまたま聞いていて、尖閣諸島近海に於ける海上保安庁派遣の巡視船の活動の正体を知ることになった。

 その質問の箇所を《衆議院インターネット審議中継》から文字化してみた。

 富田議員「公務執行妨害罪で逮捕したとされているが、なぜ領海侵犯事案として逮捕しなかったでしょうか。報道によれば、この漁船で日本の領海内に於いて、魚を獲り上げているのを保安庁の職員が目視しているという報道もあった。そうだとしたなら、漁業目的の領海侵犯ということなら、外国漁船の漁業規制に関する法律違反ということでも摘発も可能だったと思うのだが、その点はどうでしょうか」

 鈴木久泰海上保安庁長官「尖閣諸島周辺海域に於いては兼ねてより中国漁船、あるいは台湾漁船が多数操業しておりまして、本年につきましては8月中旬以降、多数の中国漁船が領海の付近の海域で操業しておりました。そのうちの一部が領海に侵入している状況が確認されています。このため私共は巡視船を配備して、退去警告、あるいは場合によっては、立ち入り検査等を実施しております。

 通常、多数の操業がありますので、退去警告、あるいは立ち入り検査で追い出すというのを原則としております。今回の事案につきましては、退去警告中の相手の漁船が網を上げて突然走り出して、巡視船『よなくに』に衝突し、さらにこれを追いかけた巡視船『みずき』に衝突してきたということでありまして、これは公務執行妨害事案として(聞き取れない、「対応すべき」?)ということで、我々は『みずき』が強行接舷をして、海上保安官6名が移乗して、これを停船させて、このあと捜査に入ったということであります。

 さらに沖縄の簡易裁判所に令状を請求して、令状を頂いて、逮捕したという経緯でございます」

 富田議員「長官、今の私の質問に答えていないのよ。なぜ領海侵犯事案、漁業目的で領海侵犯したということで検挙しなかったのかと聞いているんですよ。今あなたの答弁の中でね、網を上げたと明確に言われたじゃないですか。日本の領海に漁業目的で操業していたわけでしょ。完全にこれは領海侵犯事案じゃないですか。

 なぜそういうことを聞くかというと、領海だとすると、先程塩崎委員(自民党)の方からお話ありましたけど、14名全員、被疑者ですよ、参考人じゃない。官房長官、参考人だと言われましたけど、領海侵犯事案で検挙しておけば、全員被疑者です。逮捕してきちんと事情を聞くことができたはずです。これを公務執行妨害罪に限定したから、こういう結果になったんじゃないですか?

 なぜ領海侵犯事案で逮捕しなかったのか、その理由を聞いているんです」

 鈴木海上保安庁長官「お答えいたします。先程お答えいたしましたように兼ねてより多数のこの領海に入ってですね、操業をしておりまして、それを片っ端から捕まえることはできませんで、退去警告を行い、退去させるという措置がずうっと続いておりました。従いまして、それとのバランス上、直ちに違法操業で捕まえるということはすぐに、今回特に二度も当たってきたという、悪質な公務執行妨害事案として捕まえたということでございます」

 富田議員「長官ね、重ねて聞きますけどね、領海侵犯事案として捜査継続していたんじゃないですか。公務執行妨害罪で逮捕したけれども、領海侵犯事案として幅広く捜査を継続していたんじゃないですか。そこはどうですか」

 鈴木海上保安庁長官「外国人漁業規制法違反、違法操業の疑いでも捜査を行っていました」

 富田議員「それだとすると、海上保安庁長官、捜査しているのに、先程の塩崎委員の質問ですけど、14人を参考人だから、いつまでも置いておくわけにはいかないっていうふうに官房長官、言われましたけど、被疑者ですよ。捜査しているんだから、被疑者をみすみす中国に帰してしまったということになります。

 海上保安庁は違法操業ということで捜査していながら、表向きは公務執行妨害罪での検挙でしたけれども、しっかり違法操業しているんだと、領海侵犯事案なんだということで認識があったわけですよ。

 やはり船体や14名の返還というのはちょっと判断を過ったんじゃないかなというふうに私は思います」・・・・・(以上)

 先ず最初に海上保安庁と前原外相が「悪質な公務執行妨害事案」だと、その悪質性を認識していたことを海上保安庁長官が自らの言葉で証明している。三者共に現場で直接活動していた複数の海上保安官の目撃情報とビデオの映像に基づいて判断した悪質性なのから、共有して当然だが、検察庁の段階では、その悪質性は消去されることになる。

 これも菅首相が言っている「法律で認められている」「勘案」からの検察庁独自の消去なのだろうか。

 菅首相も前原外相も岡田幹事長も仙谷官房長官も、その他大勢、中国漁船逮捕を、「国内法に則って粛々と対応する」と言い、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も我が国固有の領土」だと言っている。

 だとするなら、検察庁も海上保安庁も今回の事件のような事案に関しては「国内法」と「我が国固有の領土」に厳格に則って自らの活動を行う義務と責任を負うことになる。

 その活動のことを、言ってみれば、“国内法”活動であると同時に我が国の固有の領土であると厳格に知らしめる“我が国固有の領土”活動と表現することもできる、

 だが、海上保安庁は中国漁船が領海侵犯をして漁をしていたとしても、そのことを認識していながら、「退去警告、あるいは立ち入り検査で追い出すというのを原則として」活動し、たまたま相手が巡視船2隻に衝突してきたから、「悪質な公務執行妨害事案として捕まえた」という行動は、前者後者合わせて二重の“我が国固有の領土”活動に反する行動となっていないだろうか。

 前者後者合わせて、“国内法”活動には適っているかもしれないが、“我が国固有の領土”活動には決してなっていないということである。

 “我が国固有の領土”活動を厳格に適用して初めて、尖閣諸島は日本の固有の領土であるという事実を厳然たる意志で内外に知らしめることができるはずである。当然、すべての領海侵犯漁船に対して拿捕ということにならなければ、“我が国固有の領土”活動は貫徹できない。巡視船に当たってきたから公務執行妨害で逮捕は理由とはならない。

 また政府はすべての行政機関に“我が国固有の領土”活動の貫徹を求める義務と責任を負うはずである。“我が国固有の領土”活動に少しでも手落ちが生じたなら、外国との間で領有権に関わる意見が異ならない領土であるなら問題はないが、その逆なら、「固有である」ことに些かの揺らぎを与え、最悪、今回のように国益を損なうことにもなる。

 当然、領土問題に関する法律の解釈と執行に関しては、“我が国固有の領土”活動に“国内法”活動を合致させる必要が生じる。決して“国内法”活動に“我が国固有の領土”活動を合致させるのではないはずだ。合致させた場合、“我が国固有の領土”活動の否定となる。

 だが、尖閣問題に関しては“国内法”活動に“我が国固有の領土”活動を合致させる行動となっている。しかも政府は「尖閣諸島は我が国の固有の領土である」と言いながら、“我が国固有の領土”活動を放置している。いわば政府自体が「尖閣諸島は我が国の固有の領土である」と言いながら、“我が国固有の領土”活動を否定する行動を示していることになる。

 政府の下位行政機関である海上保安庁の“国内法”活動に“我が国固有の領土”活動を合致させた行動は政治の意思が働いていないことには下位行政機関として為せる事柄ではないはずであるし、政府自らの“我が国固有の領土”活動の放置に対応した海上保安庁の外国漁船に領海侵犯を受けながら、“我が国固有の領土”活動に反する「退去警告、あるいは立ち入り検査で追い出すというのを原則」とした“国内法”活動と見なければならない。

 当然、那覇地方検察庁にしても、政府の下位機関の一部として、政府自らの“我が国固有の領土”表現の放置、もしくは否定の支配下にあるはずである。菅首相が言うように、「検察がいろいろな状況を勘案」した釈放ではなく、政府による「政治介入」を受けた、政府の“我が国固有の領土”表現の放置、もしくは否定に則った釈放と見なければ、下位行政機関としての整合性を見い出すことはできない。

 そのことが那覇地方検察庁の鈴木亨次席検事の「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」という発言となって現れたと見るべきだろう。

 政府自らが海上保安庁に「退去警告、あるいは立ち入り検査で追い出すというのを原則」とさせる“我が国固有の領土”活動の放置となる、もしくは否定となる行動を行わせておきながら、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も我が国固有の領土」だと言のは矛盾した、言う資格のない発言と断言せざるを得ない。

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